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SESとは|準委任契約の仕組みと、売上の33.5%が外注費に回る理由

SESとは|準委任契約の仕組みと、売上の33.5%が外注費に回る理由 ITエンジニアの仕事と年収
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求人票に「SES」と書いてあるのを見て、何の略か分からないまま読み飛ばした方は多いはずです。システムエンジニアリングサービスの頭文字で、日本語に直すと「技術者の作業を提供する役務」という意味になります。

ただ、略語をほどいても、中身は見えてきません。派遣と何が違うのか。請負とどこで分かれるのか。給料はどこから出ているのか。ここが分からないままだと、求人票の数字を読む足場がありません。

先に結論を書きます。

SESは「完成」ではなく「時間」を売る契約です。 民法の準委任という形をとり、成果物を仕上げる義務を負いません。だから値段は、作ったものではなく、そこにいた時間で決まります。

ここで扱うのは、契約の形そのものだけです。国の告示、業界団体の統計、公開されている単価表を1つずつ開いて、数字を拾いました。

SESとは、時間を売る契約のことです

SESとは、技術者の作業時間を提供する契約の呼び名です。法律上の分類は民法の準委任にあたり、「システムを完成させる」約束ではなく「決められた時間、業務にあたる」約束になります。雇っているのは自社、働く場所は客先。この2つがずれているところが、他の働き方といちばん違う点でした。

言葉の整理から始めます。SESは法律の用語ではありません。 民法にも労働者派遣法にも、SESという言葉は出てきません。業界の中で使われてきた呼び名です。

では法律上は何なのか。ここが準委任でした。

準委任は、民法の第六百五十六条に置かれています※1。第六百四十三条の委任(法律行為の委託)を、法律行為ではない事務にも当てはめる、という条文です。ソフトウェアの設計も、サーバーの監視も、法律行為ではありません。だからこちらに入ります。

ここで「完成の義務が無い」という性質が決まります。 作ったものが期待どおりでなかった場合の責任の重さが、請負とはまるで違いました。

そしてもう1つ。時間で値段が決まるので、働く人の給料も時間から逆算されます。 月にいくら、という単価が先に決まり、そこから会社の費用を引いた残りが給料になる。この順番が、あとで数字を追うときの土台です。

SESとは法律で何にあたるのか|準委任・請負・派遣の3つの違い

SESは民法の準委任、請負は民法の請負、派遣は労働者派遣法にもとづく契約です。違いは「何に対してお金を払うか」と「誰が指示を出すか」の2点に集約されます。この2点さえ押さえれば、契約書の表紙を見なくても、自分がどの形で働いているかは判断できます。

条文を並べます。

民法第六百三十二条は、請負をこう定めています※1。

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

「仕事の結果に対して」の一文が、請負のすべてです。 動くものが仕上がらなければ、報酬の話にたどり着きません。

いっぽう準委任には、この「完成」がありません。業務にあたった時間そのものが商品になります。

3つ目の派遣は、そもそも根拠になる法律が別でした。労働者派遣法にもとづき、許可を受けた会社だけが行えます※2。派遣先が直接指示を出してよい、と法律が正面から認めている形です。

表にすると、こうなります。

SES(準委任) 請負 派遣
根拠になる法律 民法656条 民法632条 労働者派遣法
お金の対象 働いた時間 完成した成果物 働いた時間
完成の義務 無し 有り 無し
指示を出す人 自社の責任者 自社の責任者 客先(派遣先)
取り分の公開義務 無し 無し 有り(派遣法23条)※2

見ていただきたいのは、右下の欄です。派遣には、会社の取り分(マージン率)を公開する義務があります。SESにはありません。 その仕組みの中身は派遣会社のマージン率とは|仕組みと平均、法律で公開される理由に書きました。公開されている側の数字を先に見ておくと、公開されていない側の見当がつきます。

SESと派遣を分ける線は、国の告示に9つ書いてある

SESと派遣を分ける線は、契約書の題名ではなく、実際の働き方で引かれます。国はその基準を告示という形で公表していて、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)といいます※3。現場で確かめられる項目が9つ並んでおり、全部に当てはまらなければ派遣とみなす、という書き方になっていました。

この告示は、通称を37号告示といいます。第二条には、判断の材料が具体的に並んでいました※3。

第1のまとまり ─ 労働力を自ら直接使っているか

  • イ(1) 業務のやり方についての指示を、自社で行っているか
  • イ(2) 業務の評価についての指示を、自社で行っているか
  • ロ(1) 始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇の指示を、自社で行っているか
  • ロ(2) 残業や休日出勤の指示を、自社で行っているか
  • ハ(1) 服務規律についての指示を、自社で行っているか
  • ハ(2) 配置の決定と変更を、自社で行っているか

第2のまとまり ─ 独立した事業として処理しているか

  • イ 業務に必要な資金を、自分の責任で調達しているか
  • ロ 事業主としての法律上の責任を負っているか
  • ハ 機械や資材を自分で用意するか、自分の企画や専門的な技術にもとづいて処理しているか(単に肉体的な労働力を提供するだけではないこと)

そして第三条には、これらに形だけ当てはめても、本当の目的が派遣なら派遣とみなす、と書いてあります※3。

第1のまとまりの6項目は、そのまま自分の毎日と照らせます。 残業の指示を出しているのは誰か。休暇の承認をしているのは誰か。席の移動を決めているのは誰か。ここが客先になっていれば、契約書に何と書いてあっても、実態は派遣に近いものでした。

厚生労働省は、この基準の当てはめ方について疑義応答集も出しています※4。判断に迷う場面が第1集から第3集まで積み上がっているのを見ると、線引きが現場でどれだけ悩まれてきたかが分かる資料です。

なお、この線をまたいでしまった状態を何と呼ぶか、なぜ見えにくいのかという話はSESはやめとけと言われる理由|マージン率が公開されない仕組みにまとめてあります。この記事は入口の説明なので、そちらに預けます。

SESのお金は、1人あたり3,815万円がどこへ流れるのか

情報サービス産業の売上1人あたり3,815万円のうち、外注費が1,280万円(33.54%)で人件費より大きい。

情報サービス産業協会(JISA)の基本統計調査によると、回答した300社の売上高合計は10兆6,695億円、従業員数の合計は27万9,677人でした※5。割ると、1人あたり3,815万円でした。この金額がどこへ流れるかを見ていくと、SESという契約がなぜ要るのかが数字で見えてきます。

まず、割り算を確かめます。

10兆6,695億円 ÷ 27万9,677人 = 3,815万円/人【計算】

同じ調査には、売上の使いみちの比率も載っています※5。

使いみち 売上に対する比率 1人あたりに直すと
外注費 33.54% 1,280万円
人件費 27.34% 1,043万円
営業利益 10.79% 412万円
その他(材料費・経費・設備投資など) 28.33% 1,081万円

外注費が、人件費より大きい。 ここがこの表のいちばんの読みどころです。

つまり、この300社が受け取った売上のうち、3分の1は自社の社員ではなく、別の会社に頼んだぶんでした。その頼み方の多くが、準委任、つまりSESです。

SESという契約の形が無ければ、この33.54%は成り立ちません。 完成責任を負う請負だけで受けるなら、仕事の切り出し方も見積もりの取り方もまるで変わります。時間単位で借りられるから、必要な分だけ、必要な期間だけ、外から手を足せる。この身軽さが、売上の3分の1という規模を支えていました。

働く側から見ると、この1,280万円の流れの先に自分がいます。そして人件費の1,043万円は、給料そのものではありません。 会社が人のために払うお金の合計です。

私は人材派遣の営業を長くやってきました。その実感として、この差額がいちばん誤解されやすいところでした。 社会保険料の会社負担、有給休暇のぶん、募集にかけた広告費。どれも本人には請求書が届かないので、見えません。とくに有給は、時給の契約だと、働いていない分を客先に請求できないのに本人には支払います。しかも日数は毎年増えていく。

権利として当然のものが、会社の側では毎年重くなる費用として積み上がっていく。 この2つが同じ会社の中で同時に起きているのが、人を出す商売の特徴でした。金額の妥当さを判断するには、まず差額の中身を知るところからになります。

SESの単価は「精算幅」で決まる|130時間と190時間で7万6,190円の差

SESの契約書には、月額単価と一緒に「精算幅」という時間の範囲が書かれます。よくあるのは140時間から180時間で、この範囲に収まっていれば、実際に何時間働いても月額は変わりません。範囲から外れたときだけ、時間あたりの単価をかけて足し引きします※8。

数字で追います。月額単価60万円、精算幅140〜180時間という契約を例にします。

まず、時間あたりの単価を2つ作ります。よく使われる「上下割」という決め方では、下限と上限をそれぞれ割り算に使います※8。

控除単価 = 60万円 ÷ 140時間 = 4,286円/時間【計算】超過単価 = 60万円 ÷ 180時間 = 3,333円/時間【計算】

この2つで、実際の請求額が決まる仕組みです。

その月の稼働 計算 請求額
130時間(10時間足りない) 60万円 − 10 × 4,286円 55万7,143円【計算】
140〜180時間 そのまま 60万円
190時間(10時間超えた) 60万円 + 10 × 3,333円 63万3,333円【計算】

130時間の月と190時間の月で、差は7万6,190円【計算】。働いた時間の差は60時間ありますが、金額の差は月額の12.7%にとどまります。

ここに、時間を売る商売の性格がよく出ています。 幅の内側では、時間が増えても減っても金額が動きません。だから会社にとっては読みやすい売上になり、働く側にとっては、忙しい月の手取りが忙しさほどには増えない月になります。

なお、140〜180時間は法律で決まった数字ではありません。契約ごとに違いますし、上限も下限も設けない固定精算という形もあります※8。求人票にこの幅が書いてあることはまずないので、聞くところです。

この「人月」という単位そのものを疑った古典に、人月の神話 があります。人と月は掛け算で入れ替えられる、という前提がどこで崩れるかを一冊かけて扱った本です。単価の話を仕組みから考えたい方は、この前提のほうから読むと見え方が変わります。

発注する側がSESにお金を出すのは、採るか借りるかの分かれ目があるから

企業がSESにお金を払うのは、人を採るという選択肢と比べた結果です。レバテック(レバレジーズグループ)が公開している目安では、経験5〜10年の技術者が月100万〜120万円、10年以上で月120万〜200万円以上とされます※7。一見すると高い金額ですが、比べる相手は年収ではなく、「採用してから戦力になるまでの時間と、その後ずっと続く固定費」でした。

判断が分かれる場面を、具体的に置いてみました。

半年で終わるシステム更改に、技術者が2人要る。

採る場合、求人を出し、選考をし、入社を待ち、引き継ぎをして、ようやく動き始めます。しかも半年後には、その仕事自体が無くなります。仕事が無くなっても、給料の支払いは続くという形です。

借りる場合、月額を払っている期間だけ費用が立ちます。業界では、これを固定費が変動費に変わると言い表してきました。

先ほどのJISAの調査には、この判断を裏づける数字もありました。回答企業の平均で、中途採用は1社あたり26.7人、定年を除く退職は37.2人です※5。新卒採用の45.2人と合わせれば人数は増えますが、即戦力の入れ替わりだけを見ると、採用が退職に届いていません。 採ることの難しさが、そのまま外から借りる需要になっていました。

働く技術者から見ると、この構図は自分の値段の説明にもなります。単価は自分の能力だけで決まるのではなく、「その席をいま埋められること」への値段も含んでいる。 だから、同じ経験年数でも現場によって単価が動きます。

SESという形がなくならないのは、売上の3分の1が外注費だから

SESが無くならない理由として人手不足がよく挙がりますが、それだけでは説明が足りません。より直接的な理由は、この産業の売上の33.54%が外注費で回っているという構造そのものにあります※5。仕事を外に出す量がこれだけある以上、外に出すための契約の形も必要になる、という順番でした。

供給の側の数字も見ておきます。経済産業省の試算では、IT人材の供給は2018年の103万人から2030年に113万人へ増えていく見通しです※6。減るのではなく、増える。

それでも足りないと言われるのは、需要のほうがもっと速く伸びると見込まれているからでした。供給が増えているのに追いつかない、という形の不足です。

ここから、2つのことが言えます。

1つめ。仕事を外に出す量が急に減ることは考えにくい。 33.54%という比率は、1社の方針ではなく産業全体の平均です。これが動くには、仕事の受け方そのものが変わる必要があります。

2つめ。だからといって、同じ形のまま続くとも限らない。 外に出すときの契約は準委任だけではなく、請負でも、派遣でも成り立ちます。どの形が選ばれるかは、37号告示の線をどう守るかという運用のしやすさで決まってきました※3。

他の業界がどこで稼いでいるかと並べると、この商売の位置がはっきりします。主な型をひととおり並べたのが儲かる仕組みとは|花屋・質屋・銀行など10業種のビジネスモデル一覧です。

SESで働く毎日と、向いてる人・向いてない人

SESで働く毎日は、勤め先の会社ではなく、常駐する現場で決まります。同じ会社の同期でも、片方は都心のビルで日中だけ、もう片方は郊外の施設で交代勤務、ということが普通に起きます。向き不向きは、技術力よりも「環境が変わることをどう受け取るか」で分かれていました。

JISAの調査には、労働時間の数字もあります※5。

  • 年間の所定労働時間:1,867時間
  • 所定内の実労働時間:1,748時間
  • 技術者の所定外労働時間:年220時間(月にならすと18.3時間)【計算】
  • 有給休暇の平均取得日数:13.3日(取得率73.1%)

所定より実際のほうが短く、そこに残業が乗る形です。 月18時間の残業は、精算幅140〜180時間の内側に収まる範囲でした。先ほどの計算どおり、幅の内側なら請求額は動きません。

向いている人から書きます。

  • 現場が変わることを、経験が増えることとして受け取れる人。数年で複数の業種の内側を見られるのは、この働き方だけの利点です
  • 自分の単価を聞ける人。契約の形に公開義務が無い以上、聞かなければ分かりません
  • 決められた時間の中で仕上げるのが得意な人。完成責任が無いぶん、時間の使い方が評価の中心になります

向いていない人も、同じだけはっきりしています。

  • 1つのものを最後まで作りきりたい人。契約が終われば離れるので、区切りは自分では決められません
  • 同じ場所・同じ人間関係で積み上げたい人。所属と職場がずれている状態が続きます
  • 手取りが働いた時間に比例してほしい人。精算幅の内側では、時間と金額は連動しません

この3つは、優劣ではなく相性の話です。 合わない人が悪いのではなく、合わない仕組みだったというだけでした。入る前に分かれば、選び方が変わります。

まとめ|SESとは、時間の値段の決め方だった

SESは民法の準委任にあたり、完成ではなく時間に対して払われ、単価は精算幅で決まる契約である。

拾ってきたものを並べます。

  • SESは法律用語ではなく、民法の準委任にあたる契約の呼び名※1。完成の義務は無く、時間に対して払われる
  • 派遣との線は、契約書ではなく実態で引かれる。国の告示(37号告示)に、確かめられる項目が並んでいる※3
  • 情報サービス産業の売上は1人あたり3,815万円【計算】。うち外注費が33.54%で、人件費の27.34%より大きい※5
  • 単価は精算幅で決まる。月額60万円・140〜180時間なら、130時間と190時間の差は7万6,190円【計算】
  • 発注する側にとっては、固定費を変動費に変えられることが理由。中途採用26.7人に対し退職37.2人という数字が、採ることの難しさを示す※5
  • IT人材の供給は2030年に113万人へ増える見通し※6。増えても追いつかない形の不足

SESとは、能力の値段ではなく、時間の値段の決め方でした。 幅があり、上限と下限があり、範囲の内側では動かない。ここを知っているかどうかで、求人票の数字の読み方が変わります。

そして、この仕組みは聞けば分かるものです。単価はいくらか。精算幅はどこからどこまでか。残業の指示は誰が出すのか。どれも契約書に書いてあることなので、答えられない質問ではありません。

出典

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