「SIer」と「SaaS」。どちらもIT業界の求人でよく見る言葉ですが、並べて違いを聞かれると、すぐには答えにくいものです。調べると言葉の定義は出てきます。でも、転職先として選ぶときに知りたいのは、お金の流れと、そこで働く毎日のほうです。
先に結論を置きます。SIerは、お客さん1社のためにシステムを「作る」商売。SaaSは、できあがったサービスを大勢に「貸す」商売です。 作るか借りるかで、払うお金の形も、契約の中身も、働く人に向く性格も変わります。
私は客先常駐のSESや派遣の営業・採用として、25年近く様々な人を見てきました。SaaSを売る側にいた時期もあります。その目で見た実例と、国の統計や会社の決算を並べながら、違いを順に書いていきます。
SIerとSaaSの違いは何か|「作ってもらう」か「借りる」か
SIerは、お客さんの会社の要望を聞いて、その会社だけのシステムを設計し、作り、動かす会社です。SaaSは、インターネットの向こうにあるできあがったサービスを、月いくらで借りて使う仕組み。家にたとえると、SIerは注文住宅、SaaSは家具付きの賃貸に近い関係です。
まずは違いを表で並べます。
| 比べるところ | SIer(作ってもらう) | SaaS(借りる) |
|---|---|---|
| 誰のためのものか | お客さん1社のための専用品 | 大勢のお客さんが同じものを使う |
| お金の払い方 | 作るときにまとめて払う(その後に保守料) | 月や年ごとに利用料を払う |
| 契約の中心 | 完成させる約束(請負)が多い | 使う権利を借りる(利用規約) |
| 使い始めるまで | 数か月〜数年 | 申し込んだその日から使えることも多い |
| 自社に合わせる自由 | 大きい | 用意された設定の範囲まで |
| やめるとき | 作ったものは手元に残る | 借りるのをやめれば使えなくなる |
SIerの開発でよく使われる請負という契約は、民法でこう決まっています※1。
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。(民法第632条)
完成させることそのものが約束という形です。SaaSのほうは、できあがったサービスを決まった条件で使わせてもらう約束で、完成品を作ってもらう契約ではありません。
SIerという仕事の全体像はSIerとは、SaaSの会社が売上を積み上げる仕組みはSaaS業界のビジネスモデルで詳しく扱っています。
SIerとSaaSで費用はどう違うのか|一括の数千万円と、1人月1,000円から

SIerに頼むと、作るときに数百万〜数千万円をまとめて払うことになります。SaaSは1人あたり月いくらの利用料で、たとえば業務アプリを作れるkintoneは1ユーザー月1,000円(税抜)から。最初に払う額がまるで違うので、比べられること自体が少ない組み合わせです。
買う側は、何にお金を払っているのか
実在するサービスで、SaaSの値段を見てみます。サイボウズのkintone(キントーン)は、社内の申請や顧客の管理といった業務アプリを、プログラムを書かずに作れるクラウドサービスです。料金は公式サイトで公開されています※2。
| コース | 1ユーザーあたりの月額(税抜) | 最低契約 |
|---|---|---|
| ライトコース | 1,000円 | 10ユーザー |
| スタンダードコース | 1,800円 | 10ユーザー |
| ワイドコース | 3,000円 | 1,000ユーザー |
スタンダードコースには30日間の無料お試しもあります※2。
- 誰に:自社の仕事に合う仕組みがほしいが、システム会社に一から頼むほどの予算や時間はない会社
- いくらで:100人で使っても、スタンダードコースなら月18万円、年216万円【計算】
- 何を解決するか:表計算ソフトや紙で回していた申請・管理を、決まった形のアプリにまとめる
- なぜ選ばれるか:申し込めばすぐ使い始められ、合わなければやめられるから
年216万円という数字を、SIerに作ってもらう金額と比べてみてください。後で出てくる3,000万円のシステムなら、このSaaSを100人で約13.9年使える計算です【計算】。
売っていた側から見た「比べられなかった」理由
私がSaaSを売っていたとき、「それ、システム会社に作ってもらうのと何が違うの?」と聞かれたことはありませんでした。
めっっちゃ格安サービスだったから言われなかった。年1回スキルアップ研修のためのサービス。100IDで月数万とかだったはず。
100人分で月数万円なら、1人あたりは月数百円の計算です。この値段帯だと、お客さんは「作るか借りるか」をそもそも天秤にかけません。SIerとSaaSが本当に比べられるのは、作れば数千万円、借りれば年数百万円という、金額の桁が近づく場面です。
SIerとSaaS、どちらが儲かる仕組みなのか|1つ作って大勢に貸す強さ
SaaSは、一度作ったサービスを大勢に貸すので、お客さんが増えても作る手間はほとんど増えません。kintoneを出すサイボウズの2025年12月期は売上高374億円、営業利益率27.0%でした。SIerは1社ごとに人が手を動かすので、売上を増やすには人を増やす必要があります。
これだけ見ると「SaaSのほうが儲かるなら、SIerは割に合わない仕事なのでは」と思う人もいるはずです。数字を並べてみます。
| 会社・部門 | 決算の期 | 売上 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| サイボウズ(全社) | 2025年12月期 | 374億3,000万円 | 27.0% |
| 野村総合研究所 金融機関向けのシステム部門 | 2026年3月期 | 4,051億円 | 18.3% |
(出典:サイボウズ※3、野村総合研究所※4)
利益率はSaaSの会社が高く、売上の規模はSIerの大きな部門が10倍以上。SaaSは「割合で稼ぐ」、SIerは「量で稼ぐ」という形です。
SaaSの利益率が高くなりやすいのは、100社目のお客さんに貸すときも、1社目のときと同じサービスをそのまま使えるからです。一方で、最初に作るときと、お客さんが集まるまでの間は、売上が立たないままお金が出ていきます。
SIerは、お客さんが決まってから作るので、作ったのに売れないという心配は少ない。そのかわり、人の手で作る量が売上の上限になります。同じSIerの中でも、どの工程を担うかで利益や年収が変わる話はSIerとコンサルの違いで扱いました。
「作る」を選んだ会社に何が起きたのか|3,000万円の自社向けAI
ChatGPTが世に出る前、自社向けの文章を作るAIを3,000万円ほどかけて作った会社がありました。出来は満足のいくものではなかったそうです。中小企業には大金でも、大手のAI開発にかかる費用から見ると、数百分の一の金額でした。
人を見てきた中で、こんな会社がありました。
まだCHATGPTが世に出てくる前に、自社向け自然言語生成システムを作りたい、という会社は3000万くらい掛けたが満足がいく出来ではなかった。中小企業にとって3000万は大金だが、OpenAIやアンソロピックからしたら3000万でAI作るなんて無理だと笑われる金額だから仕方ない。
「無理だと笑われる金額」がどのくらいの差なのか、数字で確かめてみます。スタンフォード大学の「AI Index 2024」は、OpenAIのGPT-4を学習させるのに使った計算の費用を約7,800万ドル、GoogleのGemini Ultraを約1億9,100万ドルと見積もっています※5。
| 何にかかったお金か | 金額 | 円にすると(1ドル150円) |
|---|---|---|
| 自社向けの文章生成システム | ― | 約3,000万円 |
| GPT-4の学習の計算費用(推計) | 約7,800万ドル | 約117億円【計算】 |
| Gemini Ultraの学習の計算費用(推計) | 約1億9,100万ドル | 約286億円【計算】 |
3,000万円は、GPT-4の学習の計算費用の約0.26%【計算】。しかもこの推計は、計算機を動かす費用だけで、研究する人の給料は入っていません。
ここから分かるのは、作り手の腕の問題というより、物差しの問題だということです。何十億、何百億円をかけて作る種類のものを、一社だけの予算で作ろうとすると、どうしても届かない部分が出ます。今なら、同じ目的には大手のAIを借りて使う道があります。「作るか借りるか」の答えは、世の中に借りられるものがあるかどうかで変わっていきます。
「借りる」を選んでやめた会社は何に困ったのか|合わせたい会社と、使いこなせない会社
SaaSをやめた会社の理由は、正反対の2つに分かれました。もっと自社向けに作り変えたくなった会社と、機能が多くて使いこなせなかった会社です。総務省の調査では、クラウドを使う企業は83.5%まで増えましたが、借りれば終わりではありません。
SaaSのほうにも、続かなかった例があります。
SaaSは結局自社向けにもっとカスタマイズしたい会社、逆に、ITリテラシーが低すぎて機能が使いこなせなくてやめた会社があった
借りる会社は、どこまで増えたのか

総務省の令和7年通信利用動向調査では、クラウドサービスを一部でも使っている企業は83.5%、全社で使っている企業は60.0%でした※6。4年前の令和3年は70.4%だったので、13.1ポイント増えています【計算】。
| 資本金の規模 | クラウドを使っている企業(令和7年) |
|---|---|
| 1,000万円未満 | 75.4% |
| 50億円以上 | 99.8% |
(常用雇用者100人以上の企業が対象※6)
大きな会社ほど、ほぼ全社がクラウドを借りています。規模が小さい会社にも4社に3社まで広がっていて、「借りる」はもう特別な選択ではありません。
合わせたい会社と、使いこなせない会社
1つ目は、使い込むほど「ここだけ自社のやり方にしたい」が増えた会社です。SaaSは大勢が同じものを使うので、1社のためだけに作り変えることはできません。そこで、作ってもらう側(SIer)に戻る道を選ぶことになります。
2つ目は、その逆。機能がたくさんあっても、使い方が社内に広がらず、やめてしまった会社です。
SaaSを売っていた頃の体験から分かったのは、買う側も「うちの何がどう良くなるのか」を言葉にできていないことが多いという点でした。売る側が相手の困りごとを特定しないと、どの機能をどう使えばいいかが決まらない。SaaSの営業やサポートの仕事は、売って終わりではなく、使いこなしてもらうところまでが本当の仕事です。
SIerからSaaSの会社に移って、うまくいく人とつまずく人の違いは
新しい技術が好きで、自分から追いかけ、休みの日もプログラミングを楽しめる人は、SaaSの会社でうまくいきやすい。決まった仕事を着実にこなしたい人や、同じことを何年も続けるのがつらい人はつまずきやすく、SESに戻った人もいました。
移った人を見てきた答えです。
最新技術大好きでキャッチアップしたり、休みの日もプログラミングが好きな人はうまくいく、サラリーマンプログラマーだったり、同じことを何年もやるのがつらい人はつまづく。それでSESに戻ってきた人も知ってる
働く側から見た、毎日の違い
この違いは、仕事の形から来ています。
| 比べるところ | SIer | SaaSの会社 |
|---|---|---|
| 何を作るか | お客さんが決めた仕様のシステム | 自社のサービスを、自分たちで決めて育てる |
| 仕事の区切り | プロジェクトごとに始まりと終わりがある | 終わりがなく、改善が続く |
| 技術の選び方 | お客さんの環境や決まりに合わせる | 自社で新しい技術を取り入れやすい |
| 評価されるもの | 約束どおりに完成させること | サービスを使う人や売上が増えること |
SaaSの会社では、決められた仕様を作り切るより、「次に何を足すか」を自分たちで考え続けることが求められます。新しい技術を追いかけるのが好きな人には、それが面白さになります。一方で、決まった役割を着実にこなすことが得意な人には、終わりの見えない改善が負担になりやすい。合う・合わないが、はっきり出やすい仕事です。
SaaSの会社に向いている人
- 新しい技術を、言われる前に自分で試してみたい人
- 休みの日にも、何かを作ったり調べたりするのが苦にならない人
- 終わりのない改善を、楽しみながら続けられる人
SIerに向いている人
- 決まった目標と期限に向けて、計画どおりに積み上げるのが得意な人
- お客さんの業務を深く知り、長く付き合うことにやりがいを感じる人
- 完成という区切りに、達成感を感じる人
SIerから外へ移る道全体はSIerから転職で整理しています。
SIerとSaaSの将来性は、AIでどう変わるのか|見極める2つの物差し
SIerの仕事が今後どこまでAIに置き換わるかは、まだ分かりません。SaaSは、AIが入ってもっと役に立つサービスになるのか、法律などの理由で無くなりにくいサービスなのかを見極める必要があります。転職先を選ぶときも、この2つの物差しが使えます。
将来について、私が考えていることです。
SIerは今後どこまでAIに取って代わられるか不明。SaaSはAIが導入されてより役立つサービスか、法律などの理由で無くなりにくいサービスか見極めが必要
SaaSの会社を見るときの2つの物差し
- AIが入って、もっと役に立つサービスか:AIを組み込むことで、使う人の手間がさらに減るサービスは伸びる余地がある
- 法律などの理由で、無くなりにくいサービスか:決まりごとに沿って記録や手続きを残す必要がある仕事は、AIが広がっても仕組みそのものが要り続ける
先ほどの総務省の調査でも、クラウドを使う理由として「システムの拡張性が高いから」が前の年から6.8ポイント増え、最も大きく伸びていました※6。後から機能を足せることが、借りる理由として重みを増しています。
SIerを見るときの視点
SIerの将来は、お客さんがITにどれだけお金をかけ続けるかに左右されます。その見方はSIerの将来性で、お客さんの投資計画の数字から考えました。AIで変わるのが「作る作業」の部分なのか、「何を作るか決める」部分なのか。自分がどちらの席に座りたいかを考えておくと、変化への備えになります。
SIerとSaaSの違いについてよくある質問


SIerとSaaSの違いでよく聞かれるのは、両方をやっている会社はあるのか、SESとの関係、SaaSの会社の営業はどんな仕事かの3つです。境目は重なりつつあり、選ぶときは会社の名前より、その会社が何で稼いでいるかを見るのが近道です。
Q. SIerがSaaSを出していることはありますか
あります。お客さんごとに作ってきた仕組みを、大勢が使えるサービスに作り直して出す例もある。求人を見るときは「SIer」「SaaS」という呼び名より、売上の多くが作る仕事から来ているのか、毎月の利用料から来ているのかを確かめると、働き方が想像しやすくなります。
Q. SESとSIer、SaaSはどうつながっていますか
SESは、エンジニアがお客さんの会社に出向いて技術を提供する契約の形です。SIerの開発現場にも、SaaSの会社の開発にも、SESのエンジニアが加わることがあります。契約とお金の流れの違いはSESとSIerの違いで詳しく書きました。
Q. SaaSの会社の営業はどんな仕事ですか
月いくらのサービスを売るので、1件ごとの金額は小さく、数を積み上げる仕事になります。ただ、数だけを追うと、目の前の相手の困りごとが見えなくなりがちです。買う側も自分の困りごとを言葉にできていないことが多いので、それを一緒に見つけるところが、この仕事の芯になります。
出典
- ※1 民法(明治二十九年法律第八十九号)(e-Gov法令検索・デジタル庁)
- ※2 kintone 料金(サイボウズ株式会社)
- ※3 2025年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(サイボウズ株式会社)
- ※4 2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(株式会社野村総合研究所)
- ※5 AI Index Report 2024(Stanford Institute for Human-Centered Artificial Intelligence)
- ※6 令和7年通信利用動向調査の結果(総務省)
