インフラエンジニアの年収を調べると、450万、550万、660万と、記事ごとに違う数字が並びます。どれを信じればいいのか分からなくなる。
数字がばらつくのには理由があります。「インフラエンジニア」は求人票の言葉であって、会社の決算書に出てくる職種の名前ではない。 決算書に「インフラエンジニアの給料」という欄は、どこにもありません。
そこで、平均年収のランキングを並べるのはやめました。かわりに、インフラを実際に持っている会社が、国に提出している書類を2社分開いて、売上・粗利・従業員数・平均年間給与・設備投資を1つずつ拾ってきています。
結論を先に書きます。
データセンターやネットワークを持つ会社の平均年間給与は、741万円と747万円。全国平均478万円の1.55倍と1.56倍でした。 そして、その社員1人の隣には、年600万〜680万円ぶんの「設備の目減り」が立っています。 年収の高さは、その人が預かっている設備の額から出ている。これがこの記事の答えです。
インフラエンジニアの年収は実際いくらか|有価証券報告書の実額で確かめる
データセンターを自前で持つさくらインターネットの平均年間給与は741万3,000円(平均40.33歳)、ネットワークとクラウドを持つインターネットイニシアティブ(IIJ)は747万2,000円(平均37.5歳)でした。国税庁の調査による全国平均478万円と比べると、1.55倍と1.56倍。年齢が3歳ちがう2社が、ほぼ同じ水準に並びます。
拾ってきた数字を並べます。どちらも2026年3月期の有価証券報告書に載っているものです。
| 項目 | さくらインターネット※1 | IIJ※2 |
|---|---|---|
| 平均年間給与 | 741万3,000円 | 747万2,000円 |
| 前年からの増減率 | +5.8% | +2.9% |
| 平均年齢 | 40.33歳 | 37.5歳 |
| 平均勤続年数 | 7.04年 | 9.3年 |
| 給与の対象人数 | 934人(提出会社) | 3,174人(提出会社) |
| グループ全体の従業員数 | 1,135人 | 5,533人 |
ここに1つ、断り書きを入れておきます。
有価証券報告書に載る「平均年間給与」は、その報告書を出した会社(提出会社)の社員だけの数字です。さくらインターネットなら934人、IIJなら3,174人。グループ会社で働く人は入っていません。だから「この会社に入れば全員740万円」ではない。あくまで、提出会社の社員の平均です。
国税庁の調査では、1年を通じて勤務した給与所得者5,137万人の平均給与が478万円、正社員に限ると545万円でした※3。この物差しなら、2社は正社員平均の1.36倍と1.37倍にあたります。
そして注目したいのは、年齢がちがうのに給与がほぼ同じという点。40.33歳の会社と37.5歳の会社が、741万円と747万円で並んでいる。個人の経験年数で決まっているなら、こうはなりません。別の何かが水準を決めている。 それを次で見ていきます。
インフラエンジニアの年収が高い理由は「1人あたりの粗利」で説明がつく
さくらインターネットは売上353億円から粗利79億5,652万円を作り、従業員は1,135人。1人あたり701万円です。IIJは売上3,453億9,500万円・粗利761億6,700万円を5,533人で作っており、1人あたり1,376万円になります。規模が10倍ちがう2社の粗利率は、22.5%と22.1%。ほとんど同じでした。
割り算の中身を出しておきます。どちらも有価証券報告書の連結損益計算書と従業員数から計算し、電卓で検算しました。
| さくらインターネット※1 | IIJ※2 | |
|---|---|---|
| 売上高(売上収益) | 353億162万円 | 3,453億9,500万円 |
| 売上総利益(粗利) | 79億5,652万円 | 761億6,700万円 |
| 粗利率 | 22.5% | 22.1% |
| 従業員数(連結) | 1,135人 | 5,533人 |
| 1人あたり売上 | 約3,110万円 | 約6,243万円 |
| 1人あたり粗利 | 約701万円 | 約1,376万円 |
1人あたり売上は2倍ちがうのに、粗利率はそろっている。インフラという商売は、規模が変わっても、売上の8割ほどが原価として出ていく形をしている。 ここが年収の話につながります。
買う側、つまり会社を経営する側の計算はこうです。 社員1人に年740万円払う。その人が関わる粗利は701万円から1,376万円。人件費が粗利とほぼ同じ額か、その半分。ふつうの商売なら成り立たない比率に見えます。
ところが、成り立っている。理由は、インフラ会社の原価の中身が、人ではなく機械だからです。
なお、さくらインターネットの粗利率は前の年の35.8%から22.5%に下がっています。会社はその理由を「中長期的な成長に向けた人材やGPU・コンテナ型データセンター等への積極的な投資」と説明しています※1。粗利が薄くなったのは、先に払った投資が原価に乗ったからです。 そしてその年も、平均年間給与は5.8%上がりました。
インフラエンジニアの年収の隣には、同じ額の「設備の目減り」が立っている
さくらインターネットの減価償却費は77億3,924万円で、従業員1人あたり681万9,000円。IIJの減価償却費及び償却費は326億7,400万円で、1人あたり590万5,000円でした。平均年間給与741万3,000円・747万2,000円の、それぞれ92%と79%にあたります。 会社は社員1人に払う給料とほぼ同じ額を、毎年「機械の目減り」として払っている。
減価償却費というのは、買った設備が1年で目減りしたぶんを費用として計上したものです。サーバー、ネットワーク機器、建物、電源設備。現金が出ていく買い物は数年前に済んでいて、その代金を毎年少しずつ費用に落としている。
| さくらインターネット※1 | IIJ※2 | |
|---|---|---|
| 減価償却費(IIJは償却費を含む) | 77億3,924万円 | 326億7,400万円 |
| 1人あたり減価償却費 | 681万9,000円 | 590万5,000円 |
| 平均年間給与 | 741万3,000円 | 747万2,000円 |
| 給与に対する比率 | 92% | 79% |
| 当期の設備投資額 | 225億5,322万円 | 322億800万円 |
この形は、他の職種にはありません。
営業職は、自分が動かした売上の何割かから給料が出ます。製造職なら、作った製品の粗利がその原資になる。ところがインフラの仕事では、自分が何かを動かす前から、そこに数百億円の設備が置いてある。 社員はその設備の番人として雇われている。だから、人数を増やさなくても粗利が増え、1人あたりの取り分が厚くなります。
いちばん分かりやすい数字を1つ出します。さくらインターネットの石狩データセンターは、帳簿価額346億7,234万円の設備を、55人で運営しています※1。 1人あたり6億3,040万円。この計算は、有価証券報告書の「主要な設備の状況」に載っている帳簿価額を、同じ表の従業員数で割っただけです。
年収740万円の人が、6億3,000万円を預かっている。 比率にすると、給料は預かっている額の0.12%にすぎません。会社から見れば、1%の給料をけちって設備が1日止まるほうが、はるかに高くつく。 インフラエンジニアの給与水準が下がりにくいのは、この計算のためです。
さくらインターネットは、この年に225億5,322万円の設備投資をしました。提出会社の給与総額を「平均年間給与741万3,000円×934人」で概算すると約69億2,000万円なので、設備に払った額は、人に払った額の約3.26倍になります【計算:22,553,224千円 ÷(7,413千円 × 934人)= 3.26】。
この「1人あたり」の物差しで他の業界と並べると、位置がはっきりします。コンサル会社は1人あたり2,100万円を売る商売でした。あちらは人そのものが商品で、設備はほとんど要りません。インフラはその逆側に立っています。
インフラエンジニアの年収に差がつくのは、設備を持つ側にいるかどうか
同じ「インフラエンジニア」という求人票でも、年収に差が出ます。分かれ目は経験年数や資格より先に、自分の給料が、設備を持つ会社から出ているのか、人を出す会社から出ているのかにあります。設備を持つ会社では、粗利の源は設備。人を出す会社では、粗利の源は1人ひとりの契約単価です。
ここは、私の仕事の話とつながります。
私は派遣とSESの営業をしていて、データセンターでサーバー構築をしているエンジニアが周りに何人もいます。 送り出す側なので、現場ごとの中身をよく聞く立場にいる。
分かったことが3つあります。
1つめ。データセンターの中は、とても寒い。 機械にとって最適な温度に保たれているためで、行くと体調を崩す人が少なくありません。
2つめ。24時間365日の運用監視という仕事がある。 ネットワークやサーバーを、夜勤を含めて途切れなく見る仕事です。現場では「24/365(にーよんさんろくご)」と呼びます。
3つめ。現場によって忙しさがまるで違う。 夜勤が静かすぎて眠気のほうがつらい現場もあれば、常に電話が鳴って待ちの人数が画面に出ている現場もある。同じ求人票の言葉でも、現場が変われば生活が変わります。
この「現場差」が、そのまま年収差になります。理由は簡単で、発注する側は現場ごとに値段を決めているからです。止めないことに値段がつく現場と、設計して作り変えることに値段がつく現場では、1人あたりに払われる額が最初から違う。
では、その値段はどう決まっているのか。契約の形から逆算できます。そこはSESはやめとけと言われる理由|マージン率が公開されない仕組みに、契約の条文から書きました。働く場所と、指揮命令の出どころと、給料の出どころが別々になる形の話です。
そして、その現場に置いてある設備そのものが、どうやってお金を生んでいるのか。 こちらはインフラエンジニアはやめとけ?データセンターの儲かる仕組みで考えるにまとめてあります。ラックを貸す商売の採算は、電気と床面積で決まる。この記事の「1人あたり6億3,000万円」の中身が、あちらに書いてあります。
インフラエンジニアの年収の原資には、国の予算まで入っている
さくらインターネットは2026年3月期に、国庫補助金等収入143億1,169万3,000円を特別利益として計上しました※1。同じ額を固定資産圧縮損として特別損失にも計上しているので、利益は増えません。設備の取得価額を、その分だけ減らす処理です。 つまり、データセンターの設備の一部は、国の予算で買われています。
この流れは、書類にはっきり書いてあります。
経済産業省によるクラウドプログラム供給確保計画への認定を起点とした積極的な投資により、GPUリソースの確保やデータセンター基盤の整備が進み、生成AI基盤を担う中核プレイヤーとしての地位を確立しつつあります※1
デジタル庁も、2026年3月27日に「さくらのクラウドについて、すべての技術要件を満たしたことを確認できたので、2026年3月27日以降本番環境の提供が可能となります」と公表しました※4。国が使うクラウドとして、正面から採用されたということです。
営業外収益にも補助金収入6億1,762万8,000円が入っています※1。特別利益と合わせると149億円あまり。 この年の設備投資225億5,322万円の、6割を超える規模です。
働く側から見ると、ここは見落としやすいところです。給料の出どころをたどると、お客さんが払うクラウド利用料だけではない。国の産業政策が、設備の原価を下げている。 その分だけ会社の投資余力が増え、設備が増え、預かる額が増えます。
裏返すと、政策が変われば設備投資の速度も変わるということでもあります。求人が増える時期と減る時期があるのは、景気だけの話ではありません。転職の時期を考えるとき、この年に国がどこへ予算を向けたかを1回見ておくと、募集が出ている理由が分かります。
インフラエンジニアが年収を上げる道は、3つに整理できる
年収を上げる方法として、資格・クラウド・上流という3点セットがよく挙がります。ここまでの数字で言い直すと、この3つはどれも「預かる設備の額を増やす」という同じ1つのことを、別の言い方にしたものでした。資格そのものに値段がついているわけではありません。
1. 設備を持つ側の会社へ移る
いちばん効くのがこれです。設備を持つ会社では、粗利の源が設備なので、人が増えなくても粗利が増える。1人あたりの取り分が厚くなります。有価証券報告書を開けば、その会社が設備を持っているかどうかは10分で分かります。見るのは「設備投資等の概要」と「主要な設備の状況」の2か所。
2. 止める側から、変える側へ動く
運用監視は、止めないことに値段がつく仕事です。設計構築は、変えることに値段がつく仕事。どちらも要るものですが、払われ方の設計が違います。 止めない仕事は「時間あたり」で値段がつき、変える仕事は「案件あたり」で値段がつく。後者のほうが、1人が関わる設備の額が大きくなります。
3. 預かる設備の桁を上げる
同じ運用監視でも、ラック10本の現場と、石狩のような大規模データセンターでは、預かっている額が2桁違います。「どの会社か」より先に「どの現場か」。 これは未経験で入る人ほど、最初に聞くべきところでした。
サーバーやネットワーク機器の実物が何でできているのかを、先に一冊で押さえておきたい方には、改訂新版 インフラエンジニアの教科書(佐野裕/シーアンドアール研究所)があります。この記事で「預かっている設備」と呼んだものの中身を、機器の単位で扱っている本です。
インフラエンジニアに向いてる人・向いてない人
預かる仕事なので、動かした量で評価されたい人ほど、最初の半年は手応えが薄い時間になります。何も起きない日が続くことが成果、という形の仕事だからです。逆に、止まっていないことに価値を感じられる人には、この仕事の形が噛み合います。資格より、効くのはここです。
向いている人
- 何も起きない日を、成果として受け取れる人。 平常運転が続くことに、そのまま値段がついています
- 現場の作法を、まず覚えにいける人。 1990年ごろから続く現場では、当時からいる方にノウハウが貯まっています。長く続く現場ほど、知恵が人に付いている。 教わるところから始めるつもりで入ると早い
- 生活の時間帯を動かせる人。 24時間365日の現場では、夜勤を含む交代制になります
- 設備の桁に興味が持てる人。 自分が触っている機械が、いくらの資産なのかを知りたくなるかどうか
向いていないかもしれない人
- 成果を毎日、目に見える形で確かめたい人
- 寒さが極端に苦手な人。 機械のための温度に保たれた部屋で作業します
- 生活のリズムを一定に保ちたい人
これは優劣の話ではなく、時間の流れ方の相性です。合わない仕事を続けるほうが、お互いにとって損になります。
インフラエンジニアの年収を、入る前に確かめる3つの数字
求人票からは読み取れないのに、有価証券報告書を開けば10分で分かること。その会社が今どの位置にいるかを示すのは、次の3つです。
1. 1人あたりの減価償却費
「連結キャッシュ・フロー計算書」の減価償却費を、従業員数で割る。この額が平均年間給与に近いほど、設備を自分で持っている会社です。 さくらインターネットは681万9,000円、IIJは590万5,000円でした。ここが極端に小さければ、その会社の粗利は設備ではなく別のところから出ています。
2. 設備投資額と、給与総額の比
「設備投資等の概要」に総額が書いてあります。これを「平均年間給与×従業員数」で割る。さくらインターネットは3.26倍でした。この倍率が高い会社ほど、これから預かる設備が増えます。 求人が出る理由も、たいていここにあります。
3. 自分が座る現場の名前
会社全体が伸びていても、自分が入る現場が小さければ、毎日の景色はそちらに近くなります。面接では会社の話ではなく、「配属される可能性のある現場はどこか」「そこは何を止めない現場か」を聞く。会社名でも職種名でもなく、現場。ここが、私が送り出す側として一番強く感じているところです。
この3つは、どの業界でも形を変えて使える物差しです。稼ぎ方の型そのものを先に押さえたい方は、儲かる仕組みとは(10業種のビジネスモデル一覧)と業界研究とは(稼ぎ方を4つの型に分ける俯瞰図)から入ると、インフラの位置が地図の上で分かります。
最後に、この記事を書きながら一番おどろいた数字を1つ。さくらインターネットとIIJは、規模が10倍ちがい、平均年齢が3歳ちがうのに、粗利率が22.5%と22.1%、平均年間給与が741万3,000円と747万2,000円でした。 事業の中身も歴史も違う2社が、ここまでそろう。設備を持って貸すという形そのものが、給与の水準を決めている。 個人の頑張りの前に、まず形があります。どの形の中に立つかを選ぶのが、転職という作業でした。
出典
- ※1 さくらインターネット株式会社 第27期 有価証券報告書(2026年6月15日提出)(さくらインターネット株式会社)
- ※2 株式会社インターネットイニシアティブ 第34期 有価証券報告書(2026年6月25日提出)(株式会社インターネットイニシアティブ)
- ※3 令和6年分 民間給与実態統計調査(国税庁)
- ※4 ガバメントクラウド(デジタル庁)
Amazonのアソシエイトとして、儲けの構造は適格販売により収入を得ています。


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