多重下請け構造とは|売上の33.5%が外注に回る仕組みと自分の層の確かめ方

ビジネスモデルの基本

多重下請け構造という言葉は、たいてい「良くないもの」として出てきます。ただ、良くないと言い切ったところで、そこから先へは進めない。なぜこの形が続いているのか、お金がどこで減るのか、自分がどのあたりに座っているのか。この3つは、良し悪しとは別に知っておく値打ちがあるはずです。

公正取引委員会が2万1000社を対象に調べた報告書と、情報サービス産業協会が300社から集めた統計。ここで使う数字は、その2つと厚生労働省の集計だけです※1※2※3。どれも誰でも開けるものなので、気になったところは文末の出典から確かめてください。

多重下請け構造とは|仕事が階層をまたいで再委託されていく形のこと

多重下請け構造とは、発注者から仕事を受けた元請が、その一部を別の会社へ再委託し、受けた会社がさらに別の会社へ出していく、階層が何段も重なった取引の形を指します。公正取引委員会の報告書では、元請・一次下請・二次下請と枝分かれしていく図で説明されました※1。建設業でも同じ形が古くから指摘されてきました。

報告書に載っている図は、こんな順番で描かれています。発注者(エンドユーザー)が元請に発注する。元請が仕事をAパート・Bパートに細分化して一次下請へ再発注する。一次下請がさらに細分化して二次下請へ再々発注する。必要に応じてC、D、Fと展開していく※1。

聞き取り調査では、個人事業者として活動していた際に6次下請の末端技術者として参加した、最大で4次請け案件の経験がある、という声も報告されました※1。4段も5段も重なるのは、例外的な話というわけでもないようです。

ここで一つ、建設業と比べておきたいところがあります。建設業法第22条には、こう書いてあります。「建設業者は、その請け負つた建設工事を、いかなる方法をもつてするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない」※5。受けた工事をまるごと他人に回すことを、条文そのもので禁じている。

ソフトウェアの再委託に、これに当たる条文はありません。だから階層の深さを決めているのは法律ではなく、発注する側と受ける側の判断です。この違いが、あとで出てくる数字の背景になります。

多重下請け構造はなぜできるのか|人手が要るのはピーク時だけだから

多重下請け構造ができる理由は、発注する側が人を抱えきれないからです。公正取引委員会が資本金3億円超の大手から聞き取った意見として、繁忙期に備えて閑散期にも雇い続けるのは難しい、全ての技術に精通した技術者をあらかじめ自社で雇っておくのは難しい、という2点が報告書に載っています※1。

原文はこうです。「大規模プロジェクトであっても人手が必要なのはピーク時のみであり、一時的な繁忙期に備えて閑散期にもスタッフを雇用し続けるのは難しい。」「新しいIT技術が次々と生まれているほか、ユーザーのニーズも多様化しているため、全ての技術に精通した技術者をあらかじめ全て自社で雇用しておくことは難しい。」※1

買う側、つまり発注する会社の決裁者から見ると、この判断はお金の計算になります。

情報サービス産業協会の調査によると、35歳の平均年収は571.4万円(残業手当を含まない)でした※2。会社はこの金額に社会保険の会社負担ぶんを上乗せして払っています。ある技術者を正社員で抱えれば、仕事のある月もない月も12か月ぶん出ていく。

仮に、その技術が要る仕事が年に6か月ぶんしかなかったとします。抱えれば571.4万円、外に頼めば半分の6か月ぶん。差額は285.7万円です。ここに、自社で採用と教育にかける時間も乗ってきます。

決裁者が外注を選ぶのは、冷たいからではなく、この差額が毎年出るからです。そして同じ計算を、一次下請も二次下請も自分の位置でやる。階層は、その連鎖の結果として積み上がっていきます。

多重下請け構造で、お金はどこへ流れるのか|売上の33.5%が外注費

多重下請け構造の下では、売上の3割強が外の会社へ流れています。情報サービス産業協会が300社から集めた2024年度の実績では、売上高外注費率の加重平均が33.54%、中央値が29.01%でした※2。同じ調査の売上高人件費率は加重平均27.34%なので、自社の社員に払う金額より外へ出す金額のほうが大きい計算になります。

3つの比率を並べてみます※2。

  • 売上高外注費率:加重平均 33.54%/中央値 29.01%
  • 売上高人件費率:加重平均 27.34%/中央値 37.50%
  • 売上高営業利益率:加重平均 10.79%/中央値 6.79%

この表でいちばん面白いのは、外注費率と人件費率で加重平均と中央値がひっくり返っているところです。

加重平均は、売上の大きい会社の影響を強く受けます。そちらでは外注費(33.54%)が人件費(27.34%)を上回りました。いっぽう中央値は、社数の真ん中にいる会社の姿を映します。そちらでは人件費(37.50%)が外注費(29.01%)を上回っている。

言い換えると、大きい会社ほど外に出し、小さい会社ほど自社の人で作っている。ピラミッドの形が、統計の2つの代表値のあいだにそのまま出ているわけです。

1億円の仕事を加重平均どおりに分解すると、3,354万円が外注費、2,734万円が自社の人件費、1,079万円が営業利益になります※2。外注費率が50%以上だった会社は、300社のうち18社(6.0%)ありました※2。

売上の半分より多くを外へ出している会社が、20社に1社ほど存在する。そういう会社にとって、外注先をどれだけ持っているかは仕入れ先の数と同じ意味を持ちます。SESはやめとけと言われる理由|マージン率が公開されない仕組みで書いたお金の流れは、この外注費の内側で起きている話です。

多重下請け構造の階層は、実際どう分かれているのか

公正取引委員会が資本金3億円以下の事業者4,589社に自社の位置づけを尋ねたところ、元請40.4%、中間下請38.2%、最終下請21.3%という結果になりました※1。資本金3億円以下でも元請として動いている会社がいちばん多く、会社の規模と階層の位置はきれいには一致していません。

もうひとつ、資本金の分布も出ています※1。

  • 元請のうち 55.0% が資本金1,000万円以下
  • 中間下請のうち 46.1% が資本金1,000万円以下
  • 最終下請のうち 68.6% が資本金1,000万円以下

下の層ほど資本金の小さい会社が増える。ここは想像どおりでした。意外だったのは、元請の半分以上も資本金1,000万円以下だったことです。

「元請=大きい会社」ではない。この事実は、求人票を読むときに効いてきます。会社案内に元請と書いてあっても、そこから会社の規模は分かりません。

取引先の数も調べられました。最終下請では、発注元が5社未満という回答が7割を超え、1社だけという回答も19.2%ありました※1。発注元が1社ということは、その1社の都合で自社の仕事量が丸ごと動くということになります。

報告書には「中抜き」事業者という言葉も出てきました。自社が参加したプロジェクトでそうした事業者の存在を感じたことがあるか、という質問に「ある」と答えたのは、全体25.9%、元請18.5%、中間下請29.2%、最終下請33.5%※1。下の層ほど割合が上がっていきます。

多重下請け構造で、単価は1階層ごとにいくら減るのか

多重下請け構造で1階層あたり何%減るのかを、IT業界で実測した公的な統計は見つけられませんでした。形の近い労働者派遣なら数字があります。厚生労働省の集計では、派遣料金(8時間換算)の平均が26,257円、派遣労働者の賃金(8時間換算)の平均が16,735円※3。差額は9,522円です。

この差額を料金で割ると36.3%になります。ただし報告書には「派遣料金は、消費税を含む額の記載である」という注記が付いています※3。消費税10%を外すと料金は23,870円になり、差は29.9%まで下がる。

税込みで36.3%、税抜きで29.9%。どちらを見るかで印象が変わるので、両方とも出しておきます。

この29.9%は派遣という制度の上で測られた数字であって、ITの再委託で測られたものではありません。階層の話に持ち込むなら、あくまで目安として扱ってください。

目安として、1階層で3割ずつ減るとどうなるか。発注者が出した金額を100とすると、一次で70、二次で49、三次で34.3、四次で24.0。三次のあたりで、はじめの金額の3分の1近くまで下がる計算になります。

ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。減った分がまるごと誰かの儲けになるわけではありません。

私は派遣会社の営業として長く働いてきたので、この差額の中身は身をもって知っています。社会保険料の会社負担。有給休暇(働いていない日の賃金は取引先に請求できないのに、本人には払う。しかも日数は毎年増える)。求人広告費。この3つだけで、差額はかなり削られていきます。

そしてもう一つ、この商売には在庫も設備も要りません。だから会社の数が増えやすく、価格競争になりやすい。

会社が増えやすいという性質は、階層が深くなりやすいという性質と同じ根から出ています。始めやすいから会社が増える。会社が増えるから、間に入れる場所も増える。多重下請け構造を「誰かが意図して作ったもの」と考えると、この当たり前さを見落とします。

差額の中身をもう少し細かく分けた話は、派遣会社のマージン率とは|仕組みと平均、法律で公開される理由にまとめてあります。

なお、人を足せば早く終わるという前提そのものを疑った古典が人月の神話です。遅れているプロジェクトに人を投入するとかえって遅れる、という指摘を一冊まるごと使って扱っています。階層を積んで人数を集める形が、なぜ思ったほど速くならないのか。その理屈のほうを知りたくなったときに開く本です。

多重下請け構造をめぐる決まりは、2026年1月に変わった

多重下請け構造を規律してきた下請法は、2026年1月1日に改正法が施行され、通称が「取適法」になりました※4。正式名称も「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」へ変わっています。大きいのは、適用の判定に従業員基準が加わったことです。

なぜこれが階層の話に効くのか。2022年の報告書に、その答えが書いてあります。

資本金1,000万円以下の事業者は、下請法の上では親事業者になり得ません。そして調査に答えた元請の55.0%、中間下請の46.1%が、まさにその資本金1,000万円以下でした※1。

間に入っている会社の半分近くが、資本金という物差しでは法律の枠の外にいた。報告書が指摘したのは、この穴でした。

2026年1月の改正では、従来の資本金基準に加えて従業員基準が入りました。プログラム作成などの取引では300人、それ以外の情報成果物作成委託等では100人が目安になります※4。資本金を小さくしていても、人数が多ければ委託事業者として扱われる形です。

ほかに加わったのは、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払等の禁止、用語の変更(親事業者→委託事業者、下請事業者→中小受託事業者)など※4。

この改正が何に向けられているかは、2022年の調査結果と並べると見えてきます。買いたたきに当たると考えられる経験が「ある」と答えたのは15.7%。内訳の1位は「予算が足りないから」などといわれて著しく低い金額を一方的に定められた(271社)、2位は「今度、何かの案件で穴埋めするから」との具体性のない約束の下で定められた(177社)でした※1。協議に応じない一方的な代金決定の禁止は、この1位と2位に正面から当たる条文です。

自分が多重下請け構造のどこに座っているか、確かめる4つの質問

多重下請け構造の中での自分の位置は、面接で4つ聞けば見当がつきます。契約書の相手は誰か。その先に何社あるか。現場で指示を出すのは誰か。自分の単価を教えてもらえるか。どれも答えられる範囲の質問で、答え方そのものが情報になります。

1. 契約書に名前が載る相手は、システムを使う会社ですか、別の会社ですか
別の会社なら、その時点で自分は二次以降にいます。元請40.4%という数字を思い出してください※1。相手が元請かどうかは、会社の大きさでは判断できません。

2. その相手の先に、あと何社ありますか
「分かりません」という答えも情報です。最終下請の33.5%が「中抜き」事業者の存在を感じたと答えている調査がある以上※1、商流が見えないこと自体は珍しい状態ではありません。知らないことを知らないと言える会社かどうかを見るほうが早い。

3. 現場で作業の指示を出すのは、どこの会社の人ですか
契約の形と指示の出し方がずれていると、それは階層とは別の問題になります。ここは線引きの話が長くなるので、SESはやめとけと言われる理由のほうに譲ります。

4. 自分の単価を、会社は教えてくれますか
教えない会社が法律に触れるわけではありません。派遣には料金を公開する決まりがありますが、準委任にはその決まりがないからです。ただ、聞いたときの答え方には、その会社の姿勢がよく出ます。

会社と会社のあいだで揉めたときの窓口も、知っておくと視野が広がります。中小企業庁が全国48か所に置いている「取引かけこみ寺」は、取引上の相談を無料で受け付けていて、弁護士への相談まで無料です※6※7。運営は公益財団法人全国中小企業振興機関協会。個人の転職相談の場ではなく、会社として相談する窓口ですが、自分の勤め先が上の層と何を交渉できるのかを知る手がかりになります。

多重下請け構造のどの層が向いているか|働く側から見た3つの道

多重下請け構造の話は「上流が偉くて下流が劣る」という形になりがちですが、実際に違うのは仕事の中身です。元請は決める仕事、中間下請は人と案件を合わせる仕事、最終下請は手を動かして作る仕事。稼ぎ方も、身につく力も、疲れる場所も違います。どれを面白いと思うかで選んだほうが長持ちする。

元請に向いているのは、決めきれる人。何を作るかを決め、金額を決め、遅れたときの責任を引き受けます。技術そのものより、決めることと説明することの比重が大きい。資本金1,000万円以下の元請が55.0%いるという事実は※1、小さい会社でも元請に立てるということでもあります。

中間下請に向いているのは、人と案件を合わせられる人。案件と技術者の組み合わせを作り、揉めごとを先に消しておく仕事です。付加価値がどこにあるのかを説明できる会社と、そうでない会社の差が、いちばん出る層でもあるはずです。報告書の「中抜き」事業者という言葉は、ここが問われていることの裏返しでもある。

最終下請に向いているのは、作ることが好きな人。手を動かす時間がいちばん長く、技術の手応えを毎日受け取れます。いっぽうで単価は上の層で決まってしまうことが多いので、そこは腕を磨くのとは別の方法で動かすしかありません。

層を移るという選択肢もあります。売り物が「人の時間」ではなく「製品」になっている会社は、この階層の外側に立っている。お金の増え方そのものが違うので、SaaS業界のビジネスモデルとは?転職に役立つ仕組みと将来性と読み比べてみてください。

もうひとつ、人ではなく設備を持つ側に回るという道もあります。そちらの儲かり方はインフラエンジニアはやめとけ?データセンターの儲かる仕組みで考えるに書きました。同じIT業界でも、時間を売る商売と設備を売る商売では、年収の上がり方がまったく違います。

多重下請け構造についてよくある質問

Q. 何次請けまであるのですか
公正取引委員会の調査には、個人事業者として6次下請の末端技術者として参加した、という声が寄せられています※1。何次までという上限の決まりはありません。

Q. 多重下請け構造そのものは違法ですか
再委託を重ねること自体を禁じる条文は、ソフトウェアにはありません。建設業には一括下請負を禁じる建設業法第22条がありますが※5、これに当たるものがない。ただし、その中で起きる買いたたきや代金の減額は、取適法が禁じています※4。

Q. 自社開発の会社に行けば、多重下請け構造とは無関係になりますか
発注する側に回るという意味では、位置が変わります。ただ、自社開発の会社も外の会社へ発注します。売上高外注費率の加重平均が33.54%という数字は※2、業界全体の平均です。どちら側に立つかが変わるだけで、構造の外に出るわけではありません。

Q. 多重下請け構造は、これから無くなりますか
公正取引委員会の提言は「サプライチェーンのスリム化」であって、階層を無くすことではありません※1。ピーク時だけ人手が要る、全ての技術を自社で抱えられない、という発注側の事情は残ります。浅くなることはあっても、消えることは考えにくい。だからこそ、自分がどこに座るかを選べるようにしておくほうが現実的です。

多重下請け構造は、誰かの悪意でできたものではなく、需要の波と技術の広がりに合わせて人を動かすための形でした。そのぶん、間に入る会社が自分の仕事を説明できるかどうかが、そのまま値段の差になって出る。求人票を読むときも、面接で質問するときも、この1点を見ていれば大きくは外しません。

業界全体をどう俯瞰するかは、業界研究とは|稼ぎ方を4つの型に分ける俯瞰図の作り方にまとめてあります。

出典

Amazonのアソシエイトとして、ビジネスモデル×転職は適格販売により収入を得ています。

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