人月単価は、見積書と給与明細の両方につながっている数字です。ところが、その2枚が同じ机に並ぶことはまずありません。客先が払う額はいくらなのか、自分の給与はいくらなのか、あいだの差はどこを通っていくのか。この3つを1本の線でつなぎます。
使う数字は3か所から取りました。情報サービス産業協会が300社から集めた統計、厚生労働省が法律に基づいて集めている派遣の集計、そして社会保険の料率表です※1※2※3。どれも誰でも開けるものなので、気になったところは文末の出典から確かめてください。
人月単価とは|エンジニア1人が1か月働くことに付く値段のこと
人月単価とは、エンジニア1人が1か月働くことに対して、発注する側が支払う金額です。1人月の中身は「1か月ぶんの労働時間」で、情報サービス産業協会の集計では年間の所定内実労働時間が1,748時間でした※1。12で割ると、1人月は145.7時間になります。
言い換えると、人月単価は「145.7時間ぶんの席を1か月借りる値段」です。人を雇う値段ではありません。ここが、この言葉をややこしくしている入口です。
1人月は何時間か|1,748時間を12で割ると145.7時間
同じ統計には、年間所定労働時間が1,867時間、ITエンジニアの年間所定外労働時間が220時間と出ています※1。所定労働時間から有給休暇や慶弔休暇を引いたものが、実際に働いた1,748時間です。
この3つを月に直すと、景色がはっきりします。所定155.6時間、実働145.7時間、残業18.3時間。実働に残業を足すと164.0時間で、これがITエンジニアの平均的な1か月でした【計算】。
契約書に「1人月=160時間」と書いてあるのを見たことがある人は多いはずです。統計から出てきた164.0時間と、ほとんど同じところに着地しています。この160という数字は、あとで出てくる精算幅の真ん中でもあります。
人月・人日・人工(にんく)は、どれも同じものを数えている
現場では呼び方が3つ並びます。人月は1か月ぶん、人日は1日ぶん、人工(にんく)は職人の世界から来た言い方で、意味は人日とほぼ同じです。3人が4か月なら12人月、1人が20日なら20人日。どれも「人数×期間」という、たったひとつの掛け算を指しています。
この掛け算には弱点があります。人数を2倍にしても期間が半分にならない仕事が、世の中にはたくさんあるからです。それでも人月が使われ続けているのは、見積りを比べられる形にする単位が、いまのところ他に定着していないためでした。
人月単価は誰がどう決めるのか|職種と企業規模と地区の表が先にある
人月単価を決めているのは、まず相場表です。一般財団法人経済調査会は月刊『積算資料』で、ソフトウェア開発業務とシステム運用・管理について、1人月あたりの技術者料金を掲載しています※4。職種はプロジェクトマネージャ、プロジェクトリーダ、プロジェクトメンバ1、プロジェクトメンバ2の4つ。企業規模別・地区別に分かれていて、3月号と9月号で更新されます。
つまり、値札は最初から4つの枠に分かれています。あなたの名前が入る欄は、この表のどこにもありません。
公共の調達で使われている物差しがある
同じ経済調査会は『情報システムの調達に係る見積標準』もまとめていて、2026年9月に改訂されました※4。見積りの手順、用語の定義、見積書式を揃えることを目的にした資料です。デジタル庁の「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン実践ガイドブック」でも、参考資料として紹介されています。
ここが、この話のいちばん面白いところです。人月単価は、誰かの気分で決まっているわけではありませんでした。発注する側が予算を組むための物差しが、ちゃんと紙になって年に2回更新されている。そして、その物差しの目盛りは職種と企業規模と地区で刻まれています。
「あなた」ではなく「席」に値段が付く
買う側、つまり発注する会社の決裁者から見ると、この形は都合がよくできています。プロジェクトメンバ2の席が3つ要る、という形で予算を立てられるからです。誰が座るかは、予算を組む段階では決まっていなくてかまいません。
働く側から見ると、ここが最初の分かれ道になります。値段が席に付いている以上、単価を上げる道は2本しかありません。上の席へ移るか、席そのものの相場が高い場所へ移るか。同じ席に座ったまま腕を上げても、次の更新までは値札が動かない仕組みです。
人月単価の相場|公的な集計では8時間で34,382円
人月単価の相場を公的な統計で見ると、情報処理・通信技術者に支払われた派遣料金は8時間換算で34,382円でした※2。厚生労働省が令和6年度の労働者派遣事業報告書を集計した数字です。20日で月に直すと687,640円。ここには消費税が含まれているので、税抜きだと625,127円になります【計算】。
この34,382円という数字が貴重なのは、法律が公開を義務づけている数少ない金額だからです。派遣は料金も賃金も報告が必要で、SESで使われる準委任契約にはその義務がありません。
SESの単価相場は月40万〜100万円|民間が公表している幅
民間が公表している幅も見ておきます。株式会社LASSICが発注者向けにまとめた資料では、実務1〜3年の初級層が月額40万〜60万円、3〜5年の中堅層が60万〜80万円、5年以上のシニア層が80万〜100万円、生成AIやクラウドネイティブなどの希少領域で100万円以上と整理されていました※5。
発注ラウンジが職種別にまとめた相場では、プロジェクトマネージャが70万〜130万円、システムアナリストが80万〜110万円、アーキテクトが70万〜90万円、プログラマーが60万〜70万円と出ています※6。経済調査会の4職種の並びと、きれいに重なる形でした。
SESの単価が公的な集計と近い理由
民間の相場表と派遣の公的な集計が近いところに並ぶのには、理由があります。売っているものが同じだからです。同じ人が、同じ時間、客先の机で働く。契約の名前が派遣でも準委任でも、そこで生まれる金額の作り方は変わりません。
違うのは、公開の義務があるかどうかだけでした。だから、自分の単価が妥当かを確かめたいときは、この34,382円が物差しになってくれるはずです。8時間で34,382円、時間あたり4,298円。税抜きなら3,907円です【計算】。
人月単価の中身|1時間5,492円のうち3,782円が人ひとりの原価
人月単価を原価から積み上げると、内訳が見えてきました。情報サービス産業協会の集計で、35歳の月間給与は348,114円、年間賞与は1,536,223円でした※1。賞与を12で割って足すと、月あたり476,133円でした【計算】。
この348,114円という水準が妥当かを、別の統計でも確かめておきました。厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査によると、情報通信業の所定内給与額は月391.0千円で、16の産業のうち3番目の高さです※9。上に並ぶのは電気・ガス・熱供給・水道業の437.5千円と、金融業・保険業の410.6千円でした。こちらは全年齢の平均なので、35歳の数字より高く出ています。
ここに、会社が負担する社会保険料が乗ります。
法定福利費は給与の15.70%
東京で働く35歳を例に、会社が負担する割合を足し上げます。健康保険が9.85%の半分で4.925%、厚生年金が18.300%の半分で9.15%、子ども・子育て支援金が0.23%の半分で0.115%、子ども・子育て拠出金が0.36%(これは全額が会社負担)※3。ここに雇用保険の事業主負担8.5/1,000=0.85%※7と、情報サービス業が当てはまる「その他の各種事業」の労災保険3/1,000=0.3%が加わります※8。
合計すると15.70%です【計算】。先ほどの476,133円に乗せると、会社が1か月に負担する人件費は550,885円になりました。145.7時間で割ると、1時間あたり3,782円です【計算】。
単価が60万円と80万円で、残る額はこれだけ変わる
ここに単価を当てはめてみました。人月単価80万円なら時間あたり5,492円で、人ひとりの原価3,782円を引くと1,710円が残りました。月に直すと249,115円、単価の31.1%です【計算】。
単価が60万円のときは、そうはいきません。時間あたり4,119円から3,782円を引いて、残るのは337円。月では49,115円、単価の8.2%でした【計算】。ここから営業と管理の費用も出ていく形です。
25歳でも同じ計算をしておきました。月間給与256,976円、年間賞与1,018,417円、合わせて月341,844円※1。法定福利費を乗せると395,514円です。単価40万円だと、残りは月4,486円しかありません【計算】。
この計算が教えてくれるのは、単価の低い席は会社にとっても余裕がない、ということです。単価を上げる交渉が、働く側と会社側の対立になるとはかぎりません。
客先が払う額と手取りの差は、どこへ行くのか

差の大きさは、公的な集計で確かめられました。情報処理・通信技術者の派遣料金が8時間で34,382円、同じ区分の賃金が21,032円でした※2。差は13,350円で、料金の38.8%でした。料金には消費税が入っているので、税抜きの31,256円で計算し直すと差は10,224円、32.7%になりました【計算】。
この3割ぶんが、どこへ向かうのか。先ほどの法定福利費15.70%を賃金に乗せると3,302円。残りは6,922円で、税抜き料金の22.1%です【計算】。ここから先が、募集費・教育費・営業と管理の固定費・待機のリスク、そして利益になります。
階層をまたぐと、この差が何度も生まれる形です。仕組みそのものは多重下請け構造とはで数字を追いました。
待機が1か月あると、単価は実質73.3万円になる
人月単価には、契約が切れている月のことが書かれていません。ところが会社は、その月も給与を払います。
単価80万円の人が年に1か月待機すると、12か月で受け取る売上は880万円。12で割ると月733,333円です【計算】。2か月なら666,667円で、80万円の83.3%まで落ちます。3か月なら60万円ちょうど。単価の数字は動いていないのに、会社に入る額は4分の3になりました。
だから、次の現場がすぐ決まる人の単価は上げやすく、間が空きやすい人は据え置かれます。これは技能の評価というより、席の埋まり方の評価です。
有給13.3日は、誰が払っているか
同じ統計で、年間の有給休暇取得日数は13.3日、付与日数は18.4日、取得率は73.1%でした※1。有給を取った日は、客先の机に人がいません。準委任では時間で精算するため、その時間は請求できない一方で、本人には支払われます。
35歳の日額で計算すると、年間所定労働日数233.4日に対して1日あたり17,900円。13.3日ぶんで238,067円、月に直すと19,839円です【計算】。この金額も、先ほどの差の中から出ています。
私は派遣会社の営業を長くやっていました。有給の日数は毎年増えていくので、価格の見直しができないと利益が静かに減っていきます。「せっかく集めた人に長く働いてほしい」と「長く働くほど有給が増える」が同じ会社の中で同時に起きていて、そこを価格交渉で解けるかどうかが営業の腕そのものでした。社会保険も有給も働く人の当然の権利で、ただ、その費用をどこが負担しているかは本人からは見えにくいところにあります。
人月単価が動く5つの要素|いちばん効くのは商流と稼働率
人月単価を動かす要素を、効き目の大きい順に5つ並べます。商流の深さ、稼働率、職種と役割、企業規模、地区。このうち自分で動かせるものと、動かせないものが混ざっています。
商流は、元請から数えて何番目かという位置です。1つ階層をまたぐたびに手数料が乗るので、同じ人が同じ現場にいても、入口が違えば受け取る額が変わります。SESはやめとけと言われる理由で扱ったマージン率の話は、この階層の話とつながっています。
稼働率は、さきほどの待機の話です。職種と役割は、経済調査会の4職種の並びに対応します。企業規模と地区は、同じ表の軸そのものでした。
単価が競争になりやすい理由は、始めやすさにある
人を現場へ送る仕事は、在庫も設備もほとんど要りません。だから会社の数が増えます。数が増えると、各社の違いを値段以外で示すのが難しくなり、客への請求額も働く人の給与も、同じ方向へ引っ張られていきます。
派遣の営業をしていたとき、これを毎月のように感じました。似た経歴の人を、似た条件で、似た単価で出す会社が何社も並ぶ。そこで値段以外の何かを作れた会社だけが、単価を上げる交渉のテーブルに着けます。同じ構造は派遣会社のマージン率とはでも数字を追いました。
人月単価の精算幅|140〜180時間の外側で起きること
人月単価には、たいてい「精算幅」が付いています。月の稼働時間の下限と上限を決めておき、その中に収まれば単価どおり、外れたら超過単価や控除単価で調整する仕組みです。株式会社LASSICの資料では、月140〜180時間という幅が参考値として挙げられていました※5。
この幅を時間単価に直すと、意味がはっきりします。単価80万円で160時間なら1時間5,000円。140時間で済めば5,714円、180時間まで働けば4,444円です【計算】。同じ80万円でも、実質の時給は1.29倍の開きが出ます。
統計上のITエンジニアは、所定内145.7時間に残業18.3時間を足して164.0時間でした※1。140〜180という幅の、やや上寄りに座っている形です。だから多くの月は精算の対象にならず、幅を超えた月だけが数字として現れます。
契約書を見るとき、単価の隣にあるこの3つを一緒に見てください。基準時間、下限、上限。ここが自分の実際の働き方とずれていると、単価が同じでも手元の感覚がまるで変わります。
人月単価の世界に向いている人と、自分の単価を確かめる3つの手順

ここまでの数字を、働く毎日に戻します。人月単価の世界は、時間で売る仕事です。成果が跳ねても単価はその月には動かず、契約の更新のときにまとめて反映されます。
向いている人・向いていない人
向いているのは、腰を据えて1つの現場に居られる人です。稼働率が高い人ほど単価が上がりやすく、現場の中で役割を広げていける人は、次の更新で職種の枠そのものを動かせます。環境が定期的に変わることを面白がれる人にも合います。
いっぽう、成果がその月の報酬に返ってくる形を望む人には、この仕組みは物足りません。時間ではなく結果で値段を付ける仕事は別にあるので、稼ぎ方の型で比べてみるのが早道です。型の一覧は業界研究とはにまとめました。
私は新卒で入った会社で、研修で習ったことと現場の数字がまるで違って見えた時期があります。いま振り返ると、ズレていたのは研修と現場ではありませんでした。会社が何で儲けているかを誰も説明しないまま、数字だけが降りてきていた。単価の中身を先に知っていれば、同じ光景の意味は違って見えたはずです。
自分の単価を確かめる3つの手順
手順は3つです。1つめ、契約書か注文書で基準時間と精算幅を見る。2つめ、自分の月額を145.7時間で割って時間単価を出し、34,382円÷8=4,298円という公的な物差しと並べる※2。3つめ、会社が公開しているマージン率を確かめる。派遣であれば公開が義務で、準委任では任意です。
この3つを並べると、自分がどのあたりの席に座っているかが数字で見えます。そのうえで、単価を上げる道を選ぶのか、値段の付き方そのものが違う場所へ動くのかを決められるはずです。
人月から離れる作り方もある
人月で値段を付けること自体を組み替えた会社もあります。倉貫義人さんの「納品」をなくせばうまくいくは、一括請負と人月見積りをやめ、月額定額の顧問契約に置き換えるまでを一冊で書いています。この記事で追ってきた「時間に値段を付けると何が起きるか」の、ちょうど裏側から書かれた本です。
IT業界の中で稼ぎ方の型がどう分かれているかは、インフラエンジニアはやめとけ?データセンターの儲かる仕組みで考えるでも別の角度から扱いました。設備に値段が付く仕事と、時間に値段が付く仕事の違いが見えます。
出典
- ※1 2025年版 情報サービス産業 基本統計調査(2024年度実績・有効回答300社)(一般社団法人 情報サービス産業協会)
- ※2 令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)(厚生労働省)
- ※3 令和8年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京支部)(全国健康保険協会)
- ※4 積算関連資料(月刊「積算資料」情報サービス料金/情報システムの調達に係る見積標準 2026年9月改訂)(一般財団法人 経済調査会)
- ※5 SESの費用相場はいくら?スキル別の月額単価・内訳とコストを抑える発注のコツ(株式会社LASSIC)
- ※6 人月単価とは?大まかな相場と構成要素についても解説(発注ラウンジ・株式会社発注ナビ)
- ※7 令和8年度 雇用保険料率のご案内(厚生労働省)
- ※8 労災保険の料率が変わります(令和6年度 労災保険率・労務費率の改定)(厚生労働省 東京労働局)
- ※9 令和6年賃金構造基本統計調査の概況(厚生労働省)
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