製薬会社の年収は高い。転職サイトのランキングを開けば、平均1,000万円台の会社がずらりと並びます。
ただ、そこから先を書いている記事がほとんど見当たりません。「責任が重いから」「インセンティブがあるから」「業務がハードだから」。この3点セットで止まってしまう。
年収の話は、その会社がどこで儲けているかからしか説明できない。 給料は空から降ってこないからです。
そこで、実際に2社の有価証券報告書を開いて、売上・粗利・研究開発費・従業員数を1つずつ拾ってきました。さらに、MR認定センターが毎年出している「MR白書」で、MRの人数が11年でどう動いたかも調べています。
結論だけ先に書くと、こうなります。
製薬会社は、社員1人あたり年7,200万円〜1億1,360万円の粗利を作っている。 そして、その粗利を作るための研究開発に、社員1人あたり年2,300万円台を使っている。 この2つが、年収1,000万円台の原資です。
製薬会社の年収は実際いくらか|有価証券報告書の数字で確かめる
製薬大手2社の有価証券報告書に載っている平均年間給与は、第一三共が1,097万6,771円(平均45.0歳)、中外製薬が1,350万7,769円(平均42才7カ月)でした。国税庁の調査による全国平均478万円と比べると、2.30倍と2.83倍。ただしこれは親会社単体の数字で、グループ全体の平均ではありません。
拾ってきた数字を並べます。
| 項目 | 第一三共(2026年3月期) | 中外製薬(2025年12月期) |
|---|---|---|
| 平均年間給与 | 1,097万6,771円※1 | 1,350万7,769円※2 |
| 平均年齢 | 45.0歳 | 42才7カ月 |
| 平均勤続年数 | 19.9年 | 15年5カ月 |
| 給与の対象人数 | 8,009人(親会社単体) | 5,104人(親会社単体) |
| グループ全体の従業員数 | 20,171人 | 7,872人 |
ここに1つ、断り書きを入れておきます。
有価証券報告書に載る「平均年間給与」は、その報告書を出した会社(親会社)の社員だけの数字です。第一三共なら8,009人、中外製薬なら5,104人。海外の子会社や国内のグループ会社で働く人は入っていません。第一三共はグループ全体で20,171人いるので、給与の集計に入っているのは4割ほどになります。
だから「製薬会社に入れば全員1,000万円」ではない。あくまで、親会社の正社員の平均です。
国税庁の調査では、1年を通じて勤務した給与所得者5,137万人の平均給与が478万円、正社員に限ると545万円でした※3。この物差しで見ると、製薬大手2社の親会社は、正社員平均の2倍から2.5倍の水準にあります。
製薬会社の年収が高い理由は「1人あたりの粗利」で説明がつく
第一三共は売上収益2兆1,230億円から粗利1兆4,540億円を作り、従業員は20,171人。1人あたり7,208万円です。中外製薬は売上収益1兆2,579億円・粗利8,942億円を7,872人で作っており、1人あたり1億1,360万円になります。年収1,000万円台は、この粗利の6分の1から8分の1にあたります。
割り算の中身を出しておきます。どちらも有価証券報告書の連結損益計算書と従業員数から計算し、電卓で検算しました。
| 第一三共※1 | 中外製薬※2 | |
|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆1,230億4,500万円 | 1兆2,579億4,100万円 |
| 売上総利益(粗利) | 1兆4,540億円 | 8,942億5,100万円 |
| 粗利率 | 68.5% | 71.1% |
| 従業員数(連結) | 20,171人 | 7,872人 |
| 1人あたり売上 | 約1億525万円 | 約1億5,980万円 |
| 1人あたり粗利 | 約7,208万円 | 約1億1,360万円 |
| 平均年間給与に対する倍率 | 6.6倍 | 8.4倍 |
これだけ見ると、「そんなに稼いでいるなら、もっと給料を出せるのでは」と思えてきます。 私も最初にこの表を作ったとき、同じことを考えました。
ところが、粗利はそのまま利益ではありません。ここから研究開発費と販売管理費が出ていきます。第一三共の場合、粗利1兆4,540億円のうち、販売費及び一般管理費が7,806億円、研究開発費が4,660億円。残った営業利益は2,291億円です。
粗利の84%が、研究と売る活動に消えている。 ここが製薬会社の形です。
この「1人あたり」の物差しで他の業界と並べると、位置がはっきりします。コンサル会社は1人あたり2,100万円を売る商売でした。製薬会社はその5倍を売り、そのかわり売ったお金の大半を次の薬の研究に戻しています。
買う側、つまり経営する側の計算はこうなります。 社員1人に年1,100万円払って、その人が7,200万円の粗利の一部を担う。人件費は粗利の15%ほど。一方で研究開発には1人あたり2,300万円を投じなければならない。人に払う額より、研究に払う額のほうが大きい。 この形の会社だから、人件費の水準を高く保てます。
なお第一三共の営業利益は前期比31.0%の減益でしたが、会社はその理由を「当期に製造委託先への損失補償等を一過性の費用に計上したことにより、減益となりました」と説明しています※1。一過性の要因を除いたコア営業利益は3,600億円で、前期比15.1%の増益でした。
製薬会社は薬の値段を自分で決められない|だから値引きでは差がつかない
医療用医薬品の値段は、厚生労働省が定める薬価基準に品目ごとに載っています※4。製薬会社が自分で値付けすることはできず、定期的な改定で価格は下がっていきます。つまり、営業が値引きで勝負する余地がない。これが他の業界との一番大きな違いです。
第一三共が有価証券報告書の「事業等のリスク」に書いているのは、次の一文です。
国内医療用医薬品は、薬事行政の下、種々の規制を受けております。薬価基準の改定をはじめとして、医療制度や健康保険に関する行政施策の動向によっては、経営成績、財政状態等に悪影響を及ぼす可能性があります※1
中外製薬も、国内の製商品売上について「後発品浸透や薬価改定等の影響を受けたものの、新製品のフェスゴ、ピアスカイ、主力品のバビースモ、エンスプリング、ヘムライブラが伸長し、前年同期を上回りました」と書いています※2。価格が下がる力は常にかかっていて、それを新しい薬で上回る。 会社自身がそういう説明をしています。
値段が決まっている業界がどう動くかについて、私には1つ思い出す話があります。
都内の歯科医院に通っていた知り合いの話です。 入れ歯を使っているその人に、若い歯科医がとても熱心にインプラントを勧めてきた。目が輝いていた、という言い方をしていました。断ったあと、担当は年配の歯科医に代わり、そこからは淡々と治療が進んだそうです。
熱心さそのものは、悪いことではありません。インプラントは良い治療で、勧める理由もある。引っかかったのは、断ったあとの温度差でした。
これはお金の仕組みの話です。保険診療は値段を国が決めていて、どの医院でやってもほぼ同じ額になります。自費診療は医院が自分で値段を決められる。値段を自分で決められない業界ほど、決められるもののほうに力が入る。 病院の儲かる仕組みでも、差額ベッド代と健診が同じ位置にありました。
では製薬会社はどうか。薬価も決められないうえに、話してよい内容まで決まっています。
厚生労働省の「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」は、承認された効能・効果、用法・用量等以外の使用方法を推奨することを禁止しています※5。「この薬は、まだ承認されていないこの病気にも効きます」と言ってはいけない。 口頭の説明であっても対象です。
値段も決められない。話す内容も決まっている。では、何で差がつくのか。 ここから先が、この仕事の中身になります。
製薬会社の売上の2割は研究開発に消える|1人あたり2,310万円
第一三共の研究開発費は4,660億円で、売上収益の21.9%。中外製薬は1,876億円で14.9%でした。従業員数で割ると、第一三共が1人あたり2,310万円、中外製薬が2,383万円。売上規模も利益率もまるで違う2社が、1人あたりの研究開発費では2,300万円台で並びます。
この一致は、偶然にしてはきれいすぎました。何度か計算をやり直しましたが、数字は動きません。
| 第一三共※1 | 中外製薬※2 | |
|---|---|---|
| 研究開発費 | 4,660億500万円 | 1,875億9,800万円 |
| 売上収益に対する比率 | 21.9% | 14.9% |
| 従業員数 | 20,171人 | 7,872人 |
| 1人あたり研究開発費 | 約2,310万円 | 約2,383万円 |
| 平均年間給与 | 1,097万円 | 1,351万円 |
| 給与に対する倍率 | 2.1倍 | 1.8倍 |
社員1人に払う給料の約2倍を、毎年研究に投じている。 第一三共の研究開発費4,660億円を親会社の平均年間給与で割ると、4万2,454人分の給料になります。実際の従業員数は20,171人ですから、社員全員の給料の2倍を超える額を、毎年研究に流し込んでいる形です。
なぜそこまでかかるのか。日本製薬工業協会は、新薬が1つ世に出るまでに約9〜16年かかり、成功確率は約31,000分の1だと説明しています※6。
3万分の1。宝くじのような確率に、毎年4,000億円台を賭け続ける。第一三共も、そのリスクを有価証券報告書にこう書いています。
新薬候補品の研究開発には、多額の費用と長い年月が必要ですが、その間に期待された有用性が確認できず研究開発を中止する可能性があります※1
この賭けに当たった会社だけが、高い粗利を手にする。 第一三共の売上収益は5年で1兆449億円から2兆1,230億円へ、2.03倍になりました。同じ5年で従業員は16,458人から20,171人へ22.6%しか増えていません。売上が2倍になっても、人は2割しか増えない。 1人あたりの数字が上がるのは、この差から来ています。
業界全体の地図をもう少し広く知りたい方には、最新医薬品業界の動向とカラクリがよ~くわかる本が、この章で触れた薬価と特許の関係を一冊まるごと扱っています。
製薬会社のMRは11年で3分の2に減った|MR白書が示す実数
MR認定センターの2025年版MR白書によると、2024年度のMR数は43,646名でした。2014年度の64,657名から21,011名減っており、11年で3分の2になった計算です。2024年度だけで3,073名(6.6%)減りました。人数が減り続けているのに、年収の水準は落ちていません。
白書は199社から回答を得ており、回収率は99.5%※7。業界のほぼ全数調査です。内訳はこうなっていました。
| 区分 | 2024年度のMR数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 内資系製薬企業 | 24,052名 | 55.1% |
| 外資系製薬企業 | 15,245名 | 34.9% |
| CSO(MR派遣・業務受託) | 4,249名 | 9.7% |
| 卸売販売企業 | 100名 | 0.2% |
| 合計 | 43,646名 | 100.0% |
減った理由について、白書自身が「MRを多数雇用してきた企業での早期希望退職の影響が大きかったとみられる」と書いています※7。業界の団体が、自分の白書にそう書いている。 ここは推測ではありません。
では、なぜ人が減っているのに年収が下がらないのか。
答えは前の章の数字にあります。売上が2倍になっても人は2割しか増えない構造だからです。1人あたりの粗利が上がっている限り、1人あたりに払える額も上がる。 人数が減ることと、給与水準が下がることは、この形の会社では直結しません。
未経験からこの業界を見る人に向けて、白書の数字をもう2つ。
- 2025年4月の新卒採用を行ったのは、回答198社のうち68社(34.3%)。3社に1社です※7
- MRのうち薬剤師資格を持つ人は3,764名で8.7%。9割以上は薬学部出身ではありません※7
薬剤師でなくてもなれる仕事ですが、新卒でまとめて採る会社は限られています。もう1つの入口がCSOです。CSOはMRを製薬会社へ派遣したり、プロジェクトを請け負ったりする会社で、4,249名がここに所属しています。派遣型と請負型の2つの契約形態があり、派遣会社のマージン率の仕組みと同じ構造でお金が動きます。
製薬会社で働く毎日はどういうものか|MRの仕事の中身
MRは、扱う薬も、その値段も、話してよい内容も、自分では選べません。差がつくのは、医師が必要としている情報を、必要なときに正確に渡せるかどうか。売り込みの巧みさより、覚えた量と、関係を切らさない粘りが効く仕事です。
扱うものを自分で選べない営業については、別の業界で聞いた話を1つ紹介します。
銀行に勤めていた知人の話です。 窓口に来た高齢のお客さんに、投資信託を販売する目標がある。手数料が高く、自分では自信を持って勧められないと思っている商品でも、販売しなければならない場面があった。その人はこう言っていました。
人をだましている気持ちになる。
その人が悪い人だとは、まったく思いませんでした。むしろ、そう感じてしまうくらい真面目な人だから続かなかったのだと思います。これは銀行がどこで稼いでいるかの話でした。利ざやが薄くなり、手数料で稼ぐ形の比重が上がった。窓口で金融商品を勧めるのは、その構造から自然に出てくる仕事です。
MRの場合は、ここが少し違う話です。
話してよい内容がガイドラインで決められているぶん、勧める内容と、その根拠のズレが生まれにくい設計になっています。承認された効能・効果の範囲を超えて推奨することは禁止されており、提供する情報は科学的・客観的根拠に基づくことが求められます※5。自分の裁量が小さいことが、この仕事では守りにもなっている。
そのうえで、毎日の中身を正直に書いておきます。
- 覚える量が多く、覚え直しが続く。 担当する薬の効能は改定され、競合の試験結果も出続けます
- 会える時間が短い。 医師に取れる時間は数分単位で、そこに向けて準備の時間が積み上がります
- 担当エリアが変わる。 全国に拠点を持つ会社では転居を伴う異動があります
- 収入が業績に連動して振れる。 賞与やインセンティブの比重が大きい会社ほど、年による上下が出ます
製薬会社に向いてる人・向いてない人
値引きという武器がない仕事なので、価格交渉で勝ってきた人ほど、最初の半年は手応えの薄い時間です。逆に、覚え続けることが苦にならず、断られた相手とも関係を切らずにいられる人は、この仕事の形と噛み合います。資格より、効くのはこの2つです。
向いている人
- 覚え直しが苦にならない人。 一度覚えて終わりにならない商材です
- 断られたあとも、関係を続けられる人。 次の面会までの間に何を渡すかで差がつきます
- 値段以外のところで差をつけることに面白みを感じる人。 値引きができない前提を、制約ではなく条件として受け取れるか
- 成果が出るまでの時間差に耐えられる人。 新薬は9〜16年かけて世に出ます※6。短い周期で結果が見たい人には、時間の流れが合いません
向いていないかもしれない人
- その場で値段を動かして決めたい人
- 扱う商品を自分で選びたい人
- 収入の上下があると落ち着かない人
これは優劣ではなく、時間の流れ方の相性です。合わない仕事を続けるほうが、お互いにとって損になります。
製薬会社への転職で、入る前に確かめる3つのこと
求人票からは読み取れないのに、有価証券報告書を開けば10分で分かること。その会社が今どの段階にいるかを示すのは、次の3つです。
1. 売上のうち、どれだけが伸びている薬か
有価証券報告書の「経営者による分析」に、どの製品が売上を押し上げたかが書いてある。ここが読みどころです。第一三共なら、エンハーツとダトロウェイが牽引したと明記されています※1。主力品の名前が数年前と同じままの会社と、入れ替わっている会社では、これから数年の景色が違います。
2. 研究開発費の比率
売上収益に対する研究開発費の比率は、その会社が次の10年にいくら賭けているかの数字です。第一三共は21.9%、中外製薬は14.9%でした。比率が高いほど、今の利益は薄く、将来の当たりに寄せている形です。
3. 自分が担当する領域と、その会社の主力が重なっているか
会社全体が伸びていても、自分の担当領域が縮んでいれば、毎日の景色はそちらに近くなります。面接で「配属される可能性のある領域」を聞き、その領域の製品が有価証券報告書のどこに書かれているかを見ておく。全社の数字ではなく、自分が立つ場所の数字を見る。
この3つは、どの業界でも形を変えて使える物差しです。稼ぎ方の型そのものを先に押さえたい方は、儲かる仕組みとは(10業種のビジネスモデル一覧)と業界研究とは(稼ぎ方を4つの型に分ける俯瞰図)から入ると、製薬会社の位置が地図の上で分かります。
最後に、この記事を書きながら一番おどろいた数字を1つ。中外製薬は、スイスのロシュ・ホールディングが株式の61.10%を持つ子会社です※2。 それでも東京証券取引所に上場を続けており、営業利益率は47.6%。売上収益1兆2,579億円のうち1,801億円は「その他の売上収益」で、ロイヤルティ収入などが入ります。薬を売らなくても入ってくるお金が、売上の14.3%ある。 親会社に飲み込まれず、自分の稼ぎ方を持ち続けている会社の形です。
出典
- ※1 第一三共株式会社 第21期 有価証券報告書(2026年6月19日提出)(第一三共株式会社)
- ※2 中外製薬株式会社 有価証券報告書(2025年12月期)(中外製薬株式会社)
- ※3 令和6年分 民間給与実態統計調査(国税庁)
- ※4 医療保険が適用される医薬品について(薬価基準収載品目リスト)(厚生労働省)
- ※5 医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(薬生発0925第1号)(厚生労働省医薬・生活衛生局)
- ※6 くすり研究所「くすりの開発」(日本製薬工業協会)
- ※7 2025年版 MR白書 ─ MRの実態および教育研修の調査(公益財団法人 MR認定センター)
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