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宇宙ビジネスはどこで儲かるのか|お金を払っているのは誰かで読む

宇宙ビジネスはどこで儲かるのか メーカー・建設
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2000年ごろ、街頭でインターネットのモデムが無料で配られていました。学生だった私は、それを見て「タダで配って、どこで儲けているんだろう」と首をかしげた覚えがあります。答えは、モデムのあとに続く毎月の回線契約でした。入口を無料にして、使い続けてもらうことで元を取る形です。

宇宙ビジネスの話を調べていくと、あのときと同じ問いにぶつかる。ロケット1機を打ち上げるのにも、人工衛星1機を作るのにも、大きなお金がかかる。それでも世界の宇宙経済は、2023年の6,300億ドルから2035年に1.8兆ドルへ、約2.9倍に広がると予測されています※1。

では、そのお金を払っているのは誰なのか。ここからは、国と業界団体の資料を使って、宇宙ビジネスの「お金の出どころ」を順にたどる構成です。最後は、ここで働く毎日と、転職先としての見え方まで。ほかの業界の儲け方は儲かる仕組みの一覧にまとめています。

宇宙ビジネスとは何か|「作る・運ぶ・使う」の3つの稼ぎ方

日本の宇宙市場4兆円のうち、宇宙の技術を使う産業が約2.9兆円で、作る・運ぶの約1.1兆円を上回る。

宇宙ビジネスは、人工衛星やロケットを「作る」、それを宇宙へ「運ぶ」、宇宙から届くデータや通信を「使う」の3つに分かれます。日本の市場4兆円(2020年)のうち、宇宙機器などの中核は約1.1兆円、宇宙の技術を使う産業が約2.9兆円です※1。お金の大半は「使う」側にあります。

「宇宙ビジネス」と聞くと、多くの人はロケットの打ち上げを思い浮かべるはずです。ところが、市場のお金の分け方を見ると、主役は別のところにいます。

稼ぎ方 中身の例 日本の市場(2020年)※1
作る 人工衛星、ロケット、部品、地上の設備 宇宙コア産業 約1.1兆円(作る・運ぶの合計)
運ぶ ロケットでの打ち上げサービス (同上)
使う 衛星放送、通信、測位、地球の観測データの活用 宇宙技術活用産業 約2.9兆円

身近な例が、スマートフォンの地図です。現在地が分かるのは、宇宙を回る測位衛星の電波を受けているから。地図アプリの会社は衛星を1機も持っていなくても、宇宙の仕組みの上で商売をしています。

世界の見通しも同じ形をしています。世界経済フォーラムとマッキンゼーの整理では、宇宙の技術や衛星データを地上の産業で使う「リーチ」が、2023年の3,000億ドルから2035年に1兆350億ドルへ、約3.5倍に広がると見込まれています※2。ロケットや衛星など宇宙の基盤そのもの(バックボーン)を上回る伸び。宇宙ビジネスの成長は、ロケットよりも「使う」側で起きる、というのが大筋の見立てです。

宇宙ビジネスの市場規模はどれくらい大きくなるのか

日本政府は、2020年に4兆円だった宇宙の市場を2030年代の早いうちに8兆円へ倍増させる目標を掲げています※1。内閣府の試算では2030年に約8兆円、2040年に約15兆円です。世界では2023年の6,300億ドルが2035年に1.8兆ドルになる予測です。どれも見込みの数字にとどまります。

数字を並べてみます。

範囲 起点 見通し 出どころ
世界 2023年 6,300億ドル 2035年 1.8兆ドル(約2.9倍) 世界経済フォーラム・マッキンゼー※1
日本(政府目標) 2020年 4兆円 2030年代早期 8兆円(2倍) 宇宙基本計画※1
日本(内閣府の試算) 2020年 4兆円 2030年 約8兆円、2040年 約15兆円 内閣府※1

20年で約3.75倍。大きな数字ですが、これは「こうなる見込み」であって、約束ではありません。ほかの調査会社の予測も並べられていて、数字には幅があります。

記事によって市場規模の数字がばらばらに見えるのは、どこまでを「宇宙」に数えるかが違うからです。衛星を作る会社だけを数えれば小さく、衛星の電波を使うサービスまで含めれば大きくなる。数字を見るときは、まず範囲を確かめるのが近道です。

宇宙ビジネスでお金を払っているのは誰なのか

日本で人工衛星やロケットを作る会社の売上は、2024年度に3,840億円でした。国内向けの売上のうち72%は、JAXAなど公的な機関向けです※3。作る側のいちばんの買い手は国で、令和8年度の宇宙関係予算は合計1兆446億円と初めて1兆円を超えました※1。

これだけ聞くと「国が買ってくれるなら安泰」と思う人も多いはずです。ただ、中身を見ると、もう少し複雑な形をしています。

日本航空宇宙工業会が会員企業などに聞いた調査では、2024年度の宇宙機器の売上は3,840億円で、前回より4%減りました※3。国内向け3,137億円のうち、JAXAなど公的な機関向けが72%。JAXA向けだけで1,422億円あり、前回から33%減っています※3。

宇宙機器を作る会社の数字(2024年度)※3 金額・割合
売上の合計 3,840億円(前回比 −4%)
国内向け 3,137億円
そのうち公的機関向け 72%
JAXA向け 1,422億円(前回比 −33%)
輸出 41億円

作る側の売上は、国の計画と予算の動きにそのまま連動します。 【推測】大きな衛星の開発が終わる年は売上が減り、次の計画が始まる年に戻る。会社の業績が、その年の国の計画で上下しやすい仕組みだと考えられます。

予算の約半分は「補正予算」でできている

国の宇宙関係予算1兆446億円の中身は、令和8年度の当初予算4,967億円、令和7年度の補正予算5,043億円、基金関係の436億円です※1。およそ48%が補正予算。 補正予算は、その年ごとの経済対策などで決まるお金で、毎年同じ額が付くとは限りません。

このほかに、JAXAに10年で総額1兆円規模の「宇宙戦略基金」が設けられ、民間の技術開発や事業化を支えています※1。

買う側である国から見ると、宇宙にお金を出す理由ははっきりしています。測位、通信、気象、安全保障。どれも、ほかの手段で代わりがききにくい公共の仕組みです。だから国は、自ら買い手になるだけでなく、基金を通じて民間の技術開発や事業化も支えています※1。

宇宙ビジネスは本当に儲かるのか|自分で注文を作る会社の仕組み

アメリカのスペースXは2025年に165回打ち上げ、そのうち123回(約75%)は自社の通信衛星スターリンクの打ち上げでした※4。ロケットを外に売るだけでなく、自分で衛星通信の契約を売り、その衛星を自分のロケットで運ぶ。打ち上げの注文を自分で作れることが、回数の多さを支えています。

2025年の世界の軌道への打ち上げは325回で、そのうち165回がスペースXのファルコン9でした※5。ほぼ2日に1回のペースです。回数は2020年の25回から、2024年の134回、2025年の165回へと増えています※4。

冒頭のモデムの話を思い出してください。【推測】ロケットと衛星は、あのときのモデムにあたります。それ自体で大きく儲けるというより、そのあとに続く毎月の通信料金で回収する。スペースXの打ち上げの約4分の3が自社の衛星だという数字が、この形の何よりの証拠です。

打ち上げの回数が多いと、何が変わるのか

回数が多いと、1回ごとの経験がすぐ次の機体に生かされる。【推測】1段目を回収して使い回す仕組みも、回数が多いほど効果が大きくなると考えられます。

日本の主力ロケットH3は、立場が違います。2023年3月の初号機と、2025年12月22日の8号機が失敗しました※5※6。8号機の原因は、衛星を載せる部品の内部に製造時にできた剥離が、飛行中の振動で広がったことでした※6。対策を講じたうえで、2026年6月12日に6号機の打ち上げに成功し、約半年で再開しています※5。

H3が運ぶのは、測位衛星「みちびき」のような国の大事な衛星です。1機ずつが大切な公共の資産なので、1回の打ち上げに求められる確実さの重みが違う。 打ち上げの回数の差は、技術の良し悪しというより、お金の出どころと注文の作り方の差として見ると理解しやすくなります。

宇宙ビジネスの値札はいくらか|きぼうで実験すると1種類57.6万円

国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」では、民間企業がお金を払って材料の実験を頼めます。静電浮遊炉という装置を使う実験の標準価格は、試料1種類(約2mmの球3個)で576,000円でした※7。打ち上げなどの費用の一部は、顧客を増やすために減免されています。

宇宙ビジネスの値札は、実は公開されているものもある。その代表がこれです。

  • 誰に:高い温度で溶ける材料の性質を調べたい、素材メーカーや研究機関
  • いくらで:試料1種類で576,000円。1個あたりにすると192,000円で、全額前払い※7
  • 何を解決するか:試料を宙に浮かせたまま溶かすので、容器の成分が混ざらない状態で、密度や表面張力、粘りけを測れる※8
  • なぜ選ばれるか:容器に入れて溶かすと、容器の成分が試料に混ざってしまう。容器なしで、汚れのない状態の性質を測れることが売りになっている※8

測る材料の例には、レアアース(希土類)の酸化物も挙がっています※8。

ここで注目したいのは、価格の注記です。JAXAの募集案内には、この価格は「本実験事業の自立化に向けた顧客開拓の観点から」、クルーの作業時間や打ち上げ・回収にかかる費用を減免したものだと書かれています※7。本当の費用より安い値段で売って、まず使う会社を増やす。 冒頭のモデムと同じ、入口を軽くして市場を育てる考え方が、宇宙でも使われています。

宇宙を使う商売が農業や金融、災害対策、通信の現場でどう広がっているかは、宇宙ビジネス(中村友弥)が分野ごとに扱っています。この記事で見た「使う」側の具体例を、一冊でたどれる本です。

宇宙ビジネスで働くとどんな毎日か|転職先の席は増えているのか

人工衛星やロケットを作る会社の従業員は、調査に答えた会社だけで7,511人です※3。席は多くありません。一方で、日本の宇宙スタートアップは2024年11月時点で108社あり、従業員の増加率は2024年に全産業で1位でした※1。席が増えているのは、新しい会社の側です。

宇宙ビジネスで働く場所は、大きく2つに分かれます。

働く場所 主な買い手 毎日の仕事の特徴
衛星・ロケットを作る大手メーカーの宇宙部門 国・JAXA 何年も続く大きな計画を、決められた手順で確実に進める
宇宙スタートアップ 国の支援と民間の投資、民間の顧客 少人数で設計から営業まで広く受け持ち、試して直すを速く回す

大手の宇宙部門は、国の計画に合わせて仕事が進みます。1つの衛星に何年も関わり、書類と試験を積み重ねて確実さを上げていく。確実さそのものが商品なので、その積み重ねが評価になる。

スタートアップの側は、内閣府の資料でも人が増えていると示されています※1。2016年に宇宙活動法と衛星リモートセンシング法ができて、民間が宇宙で事業をする決まりが整ったことが、参入が進んだ理由として挙げられています※1。

宇宙に関わる職場に人を送ってきて

宇宙に関わる職場に人を送ったことがあるか、と聞かれたら、こう答えます。

ありますが守秘義務のため詳しく言えません。ただ、お役所仕事に近く、前例踏襲主義なので、効率化の提案など民間企業で求められることよりも、ルールを黙って守る、ルーチンワークをミス無くこなす人が評価されます。

宇宙ビジネスに向いている人

  • 1つの仕事の完成まで、何年もかけて関わることに満足できる人
  • 決められた手順を守ることに、意味を見いだせる人(大手の宇宙部門)
  • 仕事の範囲が決まっていない環境を楽しめる人(スタートアップ)

宇宙の仕事というと、衛星を設計する技術者を思い浮かべがち。ただ、衛星から届くデータを解析する人、そのデータを農業や保険の会社に売る人、契約や法律を扱う人も、同じ宇宙ビジネスの一員です。【推測】理系の技術者でなくても入れる席は「使う」側に多いというのが、市場の分け方から見える構図です。

宇宙ビジネスの将来性は?伸びる理由と、気をつけたい点

市場が伸びる見通しと、国が予算を積み増している事実は、宇宙ビジネスの追い風です※1。ただし、作る側の売上は2024年度に4%減り※3、国の予算の約半分は年ごとに決まる補正予算です。伸びる業界の中でも、どの会社のどの席が伸びるかは分けて見る必要があります。

追い風は3つあります。

  1. 世界と日本の市場が、ともに2倍以上に広がる見通しであること※1
  2. 宇宙関係予算が1兆円を超え、10年で1兆円規模の基金もあること※1
  3. 宇宙スタートアップの上場が続き、民間の投資が入っていること※1

一方で、気をつけたい点もあります。

  • 作る側の売上は、国の計画の区切りで上下する。 2024年度は前回より4%減りました※3
  • 予算の約48%は補正予算。 毎年同じ額が付く保証はありません※1
  • 市場規模の数字は予測。 範囲の取り方で大きく変わります

転職先として見るなら、「宇宙だから伸びる」ではなく、その会社の売上が国から来ているのか、民間から来ているのかを確かめるのが第一歩です。国から来ているなら安定と引き換えに計画の波を受け、民間から来ているなら伸びしろと引き換えに景気や競争の波を受ける。どちらが自分に合うかで、選ぶ会社が変わります。業界の稼ぎ方の型を比べる方法は業界研究の俯瞰図で扱っています。

宇宙ビジネスについてよくある質問

宇宙ビジネスは使う側にお金が多く、作る側は国が主な買い手。転職では売上の出どころを確かめるのが第一歩。

宇宙ビジネスについてよく聞かれるのは、「儲からないと言われる理由」「文系でも働けるか」「市場規模の数字が記事ごとに違う理由」の3つです。順に、国が主な買い手で売上が計画に左右されやすいこと、データの活用や営業など「使う」側の席があること、数える範囲が違うことが答えになります。

Q. 宇宙ビジネスは儲からないと言われるのはなぜですか

作る側の主な買い手が国で、売上がその年の計画と予算で上下しやすいからです。日本の宇宙機器を作る会社では、国内向け売上の72%が公的な機関向けでした※3。一方で、伸びる見通しの中心は通信やデータを「使う」側です※2。【推測】こちらは民間の顧客から毎月お金が入る形を作りやすいと考えられます。

Q. 文系でも宇宙ビジネスで働けますか

働けます。衛星データを農業や保険の会社に売る仕事、契約や法律を扱う仕事、事業の企画などは、理系の専門知識より、顧客の困りごとを理解する力が問われる席です。

Q. 宇宙ビジネスの市場規模が記事によって違うのはなぜですか

どこまでを宇宙に数えるかが違うからです。日本の4兆円は、宇宙機器と、宇宙を使うサービスを合わせた数字です※1。人工衛星やロケットを作る会社の売上だけなら3,840億円でした※3。

出典

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