半導体製造装置の年収が高い理由|1人で3,000万円を稼ぐ仕組みと向いてる人

半導体製造装置の年収が高い理由は、1人あたりの利益が3,000万円あるから

半導体製造装置メーカーの年収が高いのは、社員1人あたりの営業利益が3,000万円あるからです。東京エレクトロンは営業利益6,249億円を20,236人で、ディスコは1,849億円を5,547人で稼ぎ出しました※1※2。1人あたりに直すと3,088万円と3,335万円。年収は、この桁から逆算された数字でした。

「半導体製造装置 年収」で検索すると、企業別の平均年収ランキングがずらりと出てきます。1,000万円超えが何社、という表です。ただ、その1,000万円を会社がどこから払えているのかまで書いてある記事は、なかなか見つかりません。

ここでは2社だけに絞って、実際の数字をたどります。使うのは東京エレクトロンとディスコ。どちらも金融庁のEDINETで誰でも読める有価証券報告書が材料です。転職サイトの推計値ではなく、会社が国に届け出た書類のほうを見ます。

平均年間給与は1,380万円と1,880万円。全国平均の2.9倍と3.9倍

まず、給料の側から。どちらも2026年3月期の有価証券報告書に載っている数字です※1※2。

東京エレクトロン ディスコ 全国平均
平均年間給与 1,380万4,159円 1,879万5,641円 478万円
前年からの増減 +1.9% +12.4% +3.9%
平均年齢 43.1歳 37.2歳 ―
平均勤続年数 14.7年 10.6年 ―

全国平均の478万円は国税庁の令和6年分の統計です※4。ディスコは金額で3.9倍、しかも平均年齢が37.2歳と若い。この差がどこから出ているのかを、ここからほどいていきます。

数字の範囲について、先にひとつ断り書きを。有価証券報告書に載る平均年間給与は、グループ全体ではなく「提出会社」、つまり報告書を出している本体の会社だけの数字です※1※2。東京エレクトロンは2,309人、ディスコは3,687名がその対象。あとに出てくる連結の20,236人・5,547名とは範囲が違います。海外拠点や子会社の社員は入っていません。

ちなみに、同じやり方でコンサルの年収を数えたときは、1人あたりの売上が約2,123万円でした。東京エレクトロンは1人あたり売上が1億2,075万円。同じ「年収が高い業界」でも、1人が動かす金額はまるで違います。

もうひとつ、意外な出自の話を先に。東京エレクトロンは1963年に、東京放送(現在のTBS)の関係会社「東京エレクトロン研究所」として資本金500万円で設立されました※1。出発点は自社工場を持たない技術専門商社です。そこから世界有数の装置メーカーへ移っていった会社でした。

半導体製造装置は、売った後にもお金が入り続ける

半導体製造装置の売上は、新品の装置だけではありません。東京エレクトロンの2026年3月期は、新規装置の売上が758億円減ったのに、納入済み装置の保守部品・改造・サービスが878億円増え、全体では120億円のプラスになりました※1。装置は売って終わりではなく、動いているあいだ稼ぎ続ける形になっています。

私が「この会社はどこで儲けているんだろう」と初めて考えたのは、2000年ごろでした。当時は学生で、ソフトバンクが街頭でインターネットのモデムを無料で配っていた。バイトの時給の感覚しかなかったので、タダで配ったら損をするのでは、としか思えませんでした。

答えは、モノではなくそのあとの回線契約で回収する形だった。入口と、その後。この2つを分けて見る癖がついたのは、あのときからです。半導体製造装置は、まさにこの「その後」がとても大きい商売でした。

東京エレクトロンの売上の4分の1は、納入済みの装置から

有価証券報告書には、売上を製品とサービスに分けた表が載っています※1。

2025年3月期 2026年3月期 増減
新規装置 1兆8,930億円 1兆8,172億円 △758億円(△4.0%)
フィールドソリューション他 5,384億円 6,262億円 +878億円(+16.3%)
合計 2兆4,315億円 2兆4,435億円 +120億円(+0.5%)

フィールドソリューションとは、納入済み装置への保守用部品・サービス・装置改造と、中古装置の販売のこと※1。売上に占める比率は、1年で22.1%から25.6%へ上がりました。電卓を叩いた結果です。

会社はその理由をこう書いています。

旺盛な半導体需要に伴い、当社グループの顧客である半導体メーカーの工場稼働率が上昇しているため、過去に販売した装置に対する改造や保守用部品・サービス等の売上も堅調に増加しました※1

顧客の工場が忙しいほど、装置メーカーの売上が増える。新しい工場が建たない年でも、すでに動いている装置が稼いでくれる。ここが、この商売のいちばんの特徴でした。

ディスコは、売上の37%が装置以外

もう1社のディスコは、もっとはっきりしています※2。

2026年3月期 構成比
精密加工装置 2,739億円 62.7%
精密加工ツール(消耗品) 949億円 21.7%
その他 679億円 15.6%
合計 4,368億円 100%

ディスコの装置は、半導体のウェーハを切ったり削ったり磨いたりする機械です。その刃にあたるのが精密加工ツールで、使えば減る消耗品。装置以外の売上は合計1,629億円、全体の37.3%を占めます。

消耗品の売上は前年から10.6%増えました。会社の説明では「顧客の設備稼働率等に連動して高水準の推移」※2。東京エレクトロンとまったく同じ形です。装置を入れてもらった時点で、そのあと何年ぶんの売上が決まる。ここが年収の源になっています。

半導体製造装置が値引き合戦にならないのは、止められないから

半導体製造装置の利益率が高いのは、顧客にとって装置を止めるコストのほうが大きいからです。東京エレクトロンの売上総利益率は45.3%、ディスコの営業利益率は42.3%※1※2。1台いくらの安さより、確実に動き続けることと、歩留まりを上げてくれることにお金が払われる形です。

これだけ見ると装置メーカーがずいぶん強い立場に見えますが、買う側にとっては、そのほうが安上がりという計算が先にあります。半導体の工場は、24時間止まらずに動く場所です。1台止まれば、その後ろの工程がまるごと待つ。だから顧客は、安い装置より「止まらない装置と、すぐ来る技術者」を選びます。

ディスコは、顧客の加工物を無償で預かって試し切りをする

なぜ選ばれるのか。ディスコは有価証券報告書のビジネスモデルの説明で、こう書いています※2。

顧客から加工対象物を預かり、テストカットと呼ぶ無償の加工検証を実施します。このテストカットでは、蓄積した精密加工のノウハウに基づくアプリケーション技術を駆使して、専門のエンジニアが試行錯誤しながら顧客の技術課題の解決を試みます※2

同じ報告書には、その理由も書かれていました。回転数や送り速度のわずかな違いで加工結果が大きく変わるため、最適な条件を顧客が自分で出すのは難しい※2。だから装置と刃を組み合わせて条件を出すところまでを引き受ける。

売っているのは機械ではなく、「この材料をこの条件で削れば、こう仕上がる」という答えのほうでした。答えを持っている会社が1社しかないので、価格の話は後ろに下がる。

研究開発費は売上の11.4%。1人あたり1,373万円

その答えを持ち続けるための費用も、桁が違います。東京エレクトロンの2026年3月期の研究開発費は2,778億円、売上の11.4%※1。社員1人あたりに割ると1,373万円で、平均年間給与とほぼ同じ額を研究開発に使っている計算です。

会社は、2025年3月期からの5年間で1.5兆円以上の研究開発投資と、グローバルで1万名規模の新規採用を計画していると書いています※1。年収が高い理由をひとことで言えば、これだけ投じてなお営業利益率が25.6%残る商売だから、ということです。

業界の全体像を1冊で追いたいなら、図解入門業界研究 最新半導体業界の動向とカラクリがよ~くわかる本(センス・アンド・フォース)が、この記事で扱った前工程と後工程の関係や、国内外の主要メーカーの並びをまとめて扱っています。

半導体製造装置の市場は10年で3.3倍。ただし波もある

日本製の半導体製造装置の販売高は、2016年度の1兆5,642億円から2025年度は5兆1,986億円へ、10年で3.3倍になりました※3。2026年度は26%増の6兆5,502億円という予測です。ただし右肩上がり一本ではなく、数年おきに前年割れが挟まる商売でもあります。

数字は日本半導体製造装置協会(SEAJ)が年4回出している需要予測から。AIサーバー向けの先端ロジックと、HBMを中心としたDRAM投資が伸びを引っ張っているという説明です※3。AIの話が装置メーカーの決算に直結するのは、この経路でした。データセンターの儲かる仕組みで書いた設備投資の行き先が、最後はここに着地します。

東京エレクトロンの売上は、1年で17%落ちた年がある

波のほうも見ておきます。東京エレクトロンの連結売上高の推移です※1。

決算期 売上高 前年比 純利益
2022年3月期 2兆38億円 ― 4,370億円
2023年3月期 2兆2,090億円 +10.2% 4,715億円
2024年3月期 1兆8,305億円 △17.1% 3,639億円
2025年3月期 2兆4,315億円 +32.8% 5,441億円
2026年3月期 2兆4,435億円 +0.5% 5,744億円

2024年3月期は、売上が1年で17.1%減りました。それでも純利益は3,639億円あり、赤字にはなっていません。ここが、納入済み装置からの売上を持っている会社の強さです。

会社自身も、この波を事業のリスクとして挙げています。

世界経済の動向や最終製品の需要、貿易・関税政策、地政学的要因等により、短期的には需給バランスが崩れ市場規模が変動することがあります※1

海外売上比率は90.2%※1。日本の会社なのに、売上の9割は海外です。だから為替も関税も、そのまま業績に効いてきます。転職先として見るときは、この振れ幅を知ったうえで入るかどうかが分かれ目になります。

半導体製造装置の会社で働く毎日は、顧客の工場の中にある

売上の4分の1が納入済み装置から入るということは、その分だけ人が顧客の工場にいるということです。装置を据え付け、条件を出し、止まれば駆けつける。東京エレクトロンが掲げる「Best Products, Best Technical Service」の後半が、この部分にあたります※1。工場はクリーンルームで、24時間動いています。

同じ求人票の言葉でも、現場が変われば生活が変わる

私は派遣とSES(技術者を客先に常駐させる形)の営業をしているので、客先の現場に入って働く人を、何人も送り出してきました。データセンターでサーバーを見ている人たちです。

そこで分かったことが3つあります。1つ、建物の中は機械に合わせた温度なので、かなり寒い。行くと体調を崩す人がいます。2つ、24時間365日の監視という仕事がある。現場では「24/365(にーよんさんろくご)」と呼びます。3つ、現場によって忙しさがまるで違う。夜勤が暇すぎて眠さのほうがつらい現場もあれば、電話が鳴り続けて待ち人数が画面に出ている現場もある。

半導体の工場も、同じく24時間動く現場です。だから未経験で入る人が最初に聞くべきなのは、会社名でも職種名でもなく「どの現場か」でした。同じ「フィールドエンジニア」という求人票の言葉でも、装置の種類と顧客の工場が変われば、生活そのものが変わります。

長く続く現場ほど、ノウハウが人に付いているのも共通しています。教わるには、まず関係を作るところから始まる。これは装置の現場でも変わらないはずです。

給料の決め方を、会社が自分で説明している

年収がどう決まるかも、報告書に書いてありました。東京エレクトロンは2017年度にグローバル共通の人事制度を入れています※1。

  • 基本給…「Pay for Job」の考え方で、拠点地域ごとの市場データを参照し、職責のレベルごとに水準を設定
  • 賞与…業績連動型。個人の成果と会社の業績を反映

つまり、好調な年ほど賞与が伸び、市況が落ちた年は下がる設計です。ディスコの平均年間給与が1年で12.4%増えたのも、この連動があってこその数字でした※2。銀行員の年収のように資格と年次で積み上がる形とは、増え方がかなり違います。

半導体製造装置の仕事に向いてる人・向いてない人

向き不向きは、ここまでの数字からかなりはっきり出ます。手を動かす対象が「機械そのもの」ではなく「顧客の工場で機械が出す結果」であること、そして業績に波があること。この2つに耐えられるかどうかが分かれ目です。

向いている人

  • 原因を1つずつ潰していくのが好き…条件出しは、変数を1つずつ変える作業の連続です
  • 顧客の現場に入っていくことが苦にならない…売上の4分の1は、その場所から生まれます
  • 専門を1つ深く掘りたい…装置1機種の知識が、そのまま自分の値段になります
  • 収入の振れ幅を受け入れられる…賞与が業績で動く設計です

向いていない人

  • 毎年きれいに右肩上がりの収入がほしい…市況の波がそのまま来ます
  • 幅広い業界を横断して見たい…顧客はほぼ半導体と電子部品のメーカーに絞られます
  • 夜間や休日の呼び出しを完全に避けたい…工場が動いている限り、装置は動いています

私は転職の相談を受ける仕事もしているので、辞める人のサインをよく見ます。いちばん多いのは、仕事の中身ではなく「この会社が何で儲けているか分からないまま数字だけ追わされている」状態でした。その点、半導体製造装置は儲けの出どころが有価証券報告書に全部書いてある珍しい業界です。入る前に読めるものが多いのは、それだけで有利な材料になります。

半導体製造装置メーカーへの転職で、先に見ておく3つの数字

気になる会社が見つかったら、有価証券報告書でこの3つを見ておくと、年収の意味が変わります。1つ目は営業利益を従業員数で割った額。2つ目は装置以外の売上が何%あるか。3つ目は直近5期の売上の振れ幅です。どれも報告書の中の数字を割り算するだけで出ます。

今回の2社を並べると、こうなりました(すべて2026年3月期)※1※2。

東京エレクトロン ディスコ
売上高 2兆4,435億円 4,368億円
従業員数(連結) 20,236人 5,547人
1人あたり売上高 約1億2,075万円 約7,876万円
1人あたり営業利益 約3,088万円 約3,335万円
装置以外の売上比率 25.6% 37.3%
平均年間給与 1,380万4,159円 1,879万5,641円

売上の規模は5倍以上違うのに、1人あたりの営業利益はほぼ同じ3,000万円台に並びました。年収が高い理由を一文にすると、こうなります。装置を売った後もお金が入り続けるので、少ない人数で大きな利益が残り、その中から給料が出ている。

面接で年収レンジを聞く前に、こう聞いてみると相手の話が具体的になります。

「装置以外の売上の比率は、この5年でどう動きましたか。その部門の人員は増えていますか」

比率が上がっていて人員も増えているなら、景気が落ちた年でも仕事が残る側に人を厚くしているということ。数字と人の配置がそろっているかどうかで、その会社の考え方が見えてきます。

最後に断り書きを1つ。ここで使ったのは2社の数字だけです。装置メーカーは工程ごとに得意分野が分かれていて、会社によって利益率も顧客の顔ぶれも違います。ただ、有価証券報告書は上場していればどの会社も出しているので、気になる会社で同じ計算を自分でやってみるのがいちばん確かです。

他の業界がどこで稼いでいるかと並べると、この業界の立ち位置がはっきりします。主な型をひととおり並べたのが儲かる仕組みの一覧、稼ぎ方を4つの型に分けて俯瞰したのが業界研究の俯瞰図です。

出典

Amazonのアソシエイトとして、儲けの構造は適格販売により収入を得ています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました