SaaS業界のビジネスモデルとは?従来のソフトウェアとの違い
SaaS(サース:Software as a Service)業界のビジネスモデルは、「サービスとしてソフトウェアを提供する」という、定額制のストック型ビジネス(継続的に収入が入る仕組み)です。
従来のソフトウェアは、CD-ROMなどのパッケージを購入してPCにインストールする「売り切り型」が主流でした。これに対してSaaSは、インターネットを経由して必要な分だけ月額や年額の料金を支払って利用します。スマートフォンのアプリ、企業の業務効率化ツール。気づけば、生活とビジネスの土台になりました。
SaaSをわかりやすく例えると?「自転車を買う」と「シェアサイクル」の違い
SaaSをひとことで言うと、ソフトを「買う」のではなく「借りる」仕組みです。自転車を買えば自分のものになりますが、修理も買い替えも自分持ち。シェアサイクルは月々払う代わりに、整備も新型への入れ替えも運営会社がやってくれます。ただし、やめた瞬間に手元には何も残りません。この3点が、そのままSaaSと売り切り型ソフトの違いでした。
| 自転車を買う(売り切り型ソフト) | シェアサイクル(SaaS) | |
|---|---|---|
| 最初に払うお金 | 3万円。まとまった額が要る | 0円。使った月だけ払う |
| パンクしたら | 自分で直す。修理代も自分持ち | 運営会社が直す。別の1台に乗り換えるだけ |
| 新型が出たら | 買い直さないと乗れない | 気づいたら新型に入れ替わっている |
| やめたとき | 自転車は手元に残る | 何も残らない |
最後の行が、この業界のすべての起点です。
やめた瞬間に何も残らないということは、お客さんはいつでもやめられるということでした。売り切り型なら、買わせてしまえば終わりです。SaaSは違います。毎月「今月も払う価値があったか」を問われ続けます。
だから、この業界には「売ったあとに顧客を支える専任の職種」が生まれました。あとで出てくる解約率(チャーンレート)もカスタマーサクセスという職種も、すべてこの1行から派生しています。
この仕組みは、ユーザーにとっては「初期費用を抑えて手軽に導入できる」というメリットがあり、提供企業にとっては「安定した継続収入が見込める」という最大の強みがあります。働く側から見ても、売上が突然ゼロになる形ではありません。中長期の成長を前提に動ける安心感があります。
この「安定」は、市場全体の伸びに支えられています。
富士キメラ総研の調査「ソフトウェアビジネス新市場 2025年版」によると、2025年度はSaaS/PaaSの提供形態が前年度比10%以上伸長し、市場規模は3兆円を上回る見通しです。伸びをけん引しているのはバックオフィス/コーポレート領域で、2025年度は前年度比13.1%の増加が見込まれています。
| 時期 | 企業向けソフトウエアの国内市場 |
|---|---|
| 2025年度 | 3兆円超(SaaS/PaaSは前年度比10%以上の伸び) |
| 2029年度 | 4兆1,650億円の見込み |
数字の出どころ:日経クロステック「レガシー刷新需要で法人向け国内ソフト市場は25年度3兆円超え、富士キメラ総研調査」
もう1つ、転職を考えるうえで見逃せない期限があります。2027年に、独SAPのERPパッケージ製品のサポートが終了します。移行しなければ動かなくなる企業が一斉に動くため、この数年は需要が積み上がる側に立てるということです。
| 比較項目 | 従来の売り切り型(オンプレミス) | SaaS(クラウド型) |
|---|---|---|
| 提供方法 | 自社サーバーにインストール | インターネット経由(クラウド) |
| 初期費用 | 高額(数十万〜数百万円) | 安価(初期設定費用のみ、または無料) |
| 料金体系 | 一括購入+保守費用 | 月額・年額の定額制(サブスクリプション) |
| アップデート | 買い替えが必要 | 自動で最新機能にアップデート |
実例で見るSaaS業界のビジネスモデル|kintoneは誰に、いくらで、何を売っているのか
10人でサイボウズの kintone(スタンダードコース)を使うと、月18,000円です。サイボウズの試算で使われている時給1,900円で割ると、約9.5時間分。1人あたり月1時間ほどの書き写しが減れば、費用は回収できる計算になりました。ここから、その内訳を順に見ていきます。
ここまでは仕組みの話でした。実在するサービスの値段で見たほうが、ずっと早く腹落ちします。
例に選ぶのは、サイボウズの kintone(キントーン)。業務アプリを自分たちで組み立てられるサービスで、日本企業に広く入っています。価格が公式サイトに全部載っているので、この記事の計算はあなたの手でも検算できました。
誰に向けた道具なのか ─ 価格表が教えてくれる
kintone の公式ページには、こう書いてあります。
最小契約ユーザー数は10ユーザーです。
この一行が、「どんな場面を思い浮かべて作られた道具か」を教えてくれます。
関わる人が数人のうちは、誰がどの案件を持っているかが自然に共有されます。全員の顔が見えるからです。情報が散らばり始めるのは、人数が増えて、それぞれの手元にファイルが溜まっていく段階から。kintone は、そこに差しかかったチームのために設計されています。
価格表は、そのサービスがどんな現場を想定して作られたかを語ってくれました。転職先を調べるとき、ここを最初に見てください。1分で、その会社が誰の役に立とうとしているのかが分かります。
いくらで売っているのか
| コース | 1ユーザーあたりの年額(税抜) | 10人で契約した場合 |
|---|---|---|
| ライト | 12,000円 | 年120,000円(月10,000円) |
| スタンダード | 21,600円 | 年216,000円(月18,000円) |
| ワイド | 36,000円 | 年360,000円(月30,000円) |
価格の出どころ:サイボウズ「kintone 料金」(年額サービスの場合。最小契約ユーザー数10)
どんな課題を解決するのか ─ メーカー自身が4つに絞っている
同じページには、費用対効果を試算する電卓が置いてあります。そこで削減対象として挙げられているのは、次の4つだけでした。
| 削減する作業 | 具体例 | 平均時間(サイボウズ社調べ) |
|---|---|---|
| 転記作業 | 顧客情報を見積書に書き写す、紙からExcelに打ち直す | 1.5時間/日 |
| 探しもの | 紙の書類やメールから必要な情報を探す | 1時間/日 |
| 情報共有のやりとり | 進捗を口頭で確認する、案件情報をメールで転送する | 1時間/日 |
| 集計作業 | 売上を集計する、バラバラな形式のデータを1つにまとめる | 2時間/週 |
売っているのは「便利なソフト」ではありません。「この4つに溶けている時間」です。
顧客はなぜ選ぶのか ─ 1人あたり月1時間で元が取れる
ここが記事でいちばん大事なところです。電卓を叩いてみます。
サイボウズの試算は時給1,900円で計算されています。10人でスタンダードを契約すると、月18,000円。
18,000円 ÷ 1,900円 = 約9.5時間
9.5時間 ÷ 10人 = 1人あたり月およそ1時間
10人の会社で、1人あたり月1時間の書き写しが消えれば、それで元が取れます。1日あたりにすると3分です。
営業がお客さんの前でこの計算をして見せると、話が一気に進みます。「便利になります」では動かない決裁者が、「月1時間浮けばペイします」なら動くからです。
メーカーの試算どおりなら、いくら浮くのか
公開されている計算式に、公開されている平均値をそのまま入れると、10人の会社ではこうなります。
- 転記:1.5時間 × 20日 × 10人 = 300時間/月
- 探しもの:1時間 × 20日 × 10人 = 200時間/月
- やりとり:1時間 × 20日 × 10人 × 0.7 = 140時間/月
- 集計:2時間 × 4週 × 10人 = 80時間/月
合計720時間。時給1,900円をかけると、月136万8,000円になります。
ここで押さえておきたいのは、この720時間が「上限」だということです。4つの作業が丸ごと無くなった場合の数字であり、実際にどこまで減るかは会社ごとに違います。サイボウズの電卓も、自社の作業時間を自分で入力して試算する形になっています。
それでも、この2つの数字を並べる意味はあります。元が取れるのは月9.5時間から。伸びしろの上限は月720時間。下限と上限で約76倍の幅があり、この幅こそがSaaSの営業余地そのものでした。
働く側から見ると、どういう仕事になるのか
この章の計算が、そのままSaaS業界の仕事の中身でした。
- 営業:お客さんと一緒にこの逆算をする仕事。値引きではなく、時間で説得する
- カスタマーサクセス:「やめたら何も残らない」を防ぐ仕事。導入後に本当に月1時間浮いたかを見に行く
- プロダクト開発:4つのうち、どれを何分減らすかを決める仕事
面接で「御社の損益分岐点は、お客さん1人あたり月何時間ですか」と聞ける人は、まず落ちません。その会社が何を売っているのかを、価格表から自力で読んだ証拠になるからです。
私がSaaSの営業で売れなくなった話|KPIを追うほど売れなかった
ここまでは、買う側の計算でした。ここからは、売る側に回ったときの話をします。私自身の失敗です。
私は以前、オンラインセキュリティ研修プラットフォームというSaaSを売っていました。企業の社員向けに、セキュリティ研修をオンラインで提供するサービスです。
数を追いかけていた時期、売れませんでした
当時の私が見ていたのは、商談数と問い合わせ数でした。今月あと何件、今週あと何件。目の前の相手が何に困っているかを、考えずに提案していました。
数を追うので、時間に追われます。時間に追われるので、1件ごとの質が落ちる。質が落ちるから決まらない。決まらないから、また数を増やす。
数を追う → 時間に追われる → 質が落ちる → 決まらない → もっと数を追う
この輪の中にいる間は、自分がその輪の中にいることにも気づけませんでした。
抜け出すきっかけは、LINEの通知でした
ある日、LINEの自動追加で、昔のお客さんが友だち候補に出てきました。名前を見た瞬間、新卒の頃を思い出しました。
あの頃の私に、経験はありませんでした。商談の型も、業界の人脈も持っていません。
ただし、何も勉強していなかったわけではありません。基礎知識と、扱う分野に関わる法律だけは、しっかり頭に入れました。知らずに違法なことを進めてしまったら、相手に迷惑がかかるからです。
そのうえで、できることは1つだけ。目の前の人の話を聞いて、とにかく一生懸命やることでした。
それで、喜んでもらえていました。売上もどんどん上がって、楽しかった。
がむしゃらにやっていた頃はうまくいっていたのに、責任を負って「効率」を考え出してから、おかしくなっていった。そう気づきました。
未経験で不安な20代へ、この失敗から言えること
未経験からSaaSに入ろうか迷っている人が、いちばん不安に思うのは「知識のない自分に務まるのか」だと思います。
不足していたのは経験であって、勉強ではありませんでした。ここを取り違えないでください。基礎と法律は、入る前でも入った直後でも、必ず押さえる必要があります。そこを飛ばすと、いちばん迷惑をかけたくない相手に迷惑をかけます。
そのうえで申し上げると、経験の少なさは、思っているほど不利になりません。私が売れなくなったのは、知識が足りなかったからではなく、相手を見なくなったからでした。経験の浅かった新卒の頃のほうが、相手の話を必死に聞いていたぶん、売れていたのです。
勉強も、相手のためでした
いま振り返ると、うまくいっていた頃の私は、全部が同じ動機で動いていました。
- 法律を覚えたのは ── 相手に迷惑をかけないため
- 話を必死に聞いたのは ── 相手の困りごとを取り違えないため
- 数字を持っていったのは ── 相手が社内で説明できるようにするため
試験のためでも、上司に評価されるためでもありませんでした。
KPIを追い始めた時期、この動機だけが「自分のため」にすり替わっていました。勉強も、ヒアリングも、資料づくりも、形は同じまま続けていたのに、向きが変わっていた。売れなくなった理由は、たぶんそれだけです。
ここで、前の章の計算が効いてきます。
月18,000円 ÷ 時給1,900円 = 1人あたり月およそ1時間
この計算は、値引きの代わりに使う説得材料ではありません。相手の困りごとを、相手の言葉で確かめるための道具です。
「御社では、転記や探しものに1日どれくらい取られていますか」。この一言から入る人は、自社の目標から入る人より強い。数字は、相手を追い込むためではなく、相手を理解するために使えます。
そして、それは新人でも今日からできることでした。基礎と法律を押さえたうえで、という前提つきで。
なぜSaaS業界はお金が回り続けるのか?収益構造を支える指標
SaaSのビジネスモデルは、一度契約が決まれば「毎月決まった基本料金が水道代のように入り続ける」という強固な収益構造を持っています。
この安定的な収益(ストック収益)を最大化するために、SaaSビジネスではいくつかの重要な指標を用いて経営や営業の状況を管理しています。転職活動の面接でも頻出する用語ですので、ここで仕組みを理解しておきましょう。
1. ARR(年間経常収益)とMRR(月間経常収益)
毎月、あるいは毎年、確実に入ってくることが決まっている売上のことです。単発の初期費用やコンサルティング費用などは含みません。この数値が右肩上がりに伸びている企業は、経営が非常に安定していると評価されます。
2. Churn Rate(チャーンレート:解約率)
SaaSビジネスにおいて、最も重要視される指標の一つが「解約率」です。バケツに水を入れる際、底に穴が空いていれば水は溜まりません。同様に、新規顧客をいくら獲得しても、既存顧客がすぐに解約してしまえば売上は成長しません。そのため、いかに解約を防ぐかが事業成長の鍵となります。
3. LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)
LTV(Life Time Value)は「1社の顧客が契約開始から解約までに支払ってくれる合計金額」、CAC(Customer Acquisition Cost)は「1社の顧客を獲得するために費やした広告費や人件費」を指します。一般に「LTVがCACの3倍以上」なら、そのSaaSビジネスは健全だと判断されました。
これらの指標を理解すると、SaaS企業がなぜ「売って終わり」ではなく「売った後の顧客サポート」に莫大な力を注ぐのかが論理的に見えてきます。この構造こそが、SaaS業界ならではの職種やキャリアパスを生み出す源泉となっています。
SaaS業界への転職が注目される理由は?市場の将来性と魅力
SaaS業界が転職先として高い人気を集めている理由は、国内市場の急速な拡大と、それに伴う「市場価値の高い人材への成長機会」が豊富にあるからです。
日本の多くの企業では、労働力不足や業務効率化(DX:デジタルトランスフォーメーション)が喫緊の課題となっています。この課題を解決する最も現実的で手軽な手段がSaaSの導入であるため、業界全体の需要は非常に強固です。民間調査機関などの報告によると、国内のSaaS市場規模は今後も右肩上がりで成長を続けると予測されています。
また、この成長環境で働くこと自体が、転職検討者にとって大きなキャリアのメリットになります。市場が拡大している業界では、新しいポジションや責任ある仕事が次々と生まれるため、20代〜40代のどの年代であっても、未経験から挑戦して短期間でキャリアアップを実現できる可能性が高いのです。
「将来性のある業界で、どこでも通用するスキルを身につけたい」。そう考える人にとって、SaaS業界はいま最も分かりやすい選択肢の1つです。
SaaS業界の主要な職種と、働くうえでの「向き・不向き」
SaaS企業で働く場合、そのビジネスモデルに最適化された独特の職種構成を理解しておく必要があります。従来のIT企業とは役割分担が異なります。
SaaS業界の職種は、顧客の検討段階から契約後の定着までを一気通貫でフォローするため、主に以下の4つに分業化されているケースが一般的です(これを「ザ・モデル」型と呼びます)。
- インサイドセールス(IS):見込み顧客に対して電話やメールでアプローチし、興味関心を引き出して商談(アポイント)を獲得する役割。
- フィールドセールス(FS):獲得した商談を引き継ぎ、顧客の課題を深掘りして最適な提案を行い、受注(契約)に導く役割。
- カスタマーサクセス(CS):契約後の顧客に対してツールの導入支援や活用提案を行い、顧客の事業を成功に導くことで「解約(チャーン)」を防ぐ最重要の役割。
- プロダクト開発(エンジニア・PM):現場の顧客からのフィードバックを素早く反映し、常にソフトウェアの価値をアップデートし続ける役割。
この中で、特にSaaS業界ならではの職種が「カスタマーサクセス」です。単なる「受け身のサポート窓口」ではなく、顧客の売上アップや業務効率化を主体的に支援するコンサルタントのような役割を担います。
SaaS業界に向いている人の特徴
日々変化する環境を楽しめる柔軟性と、他者の成功を喜べるホスピタリティ。この2つを持つ人が伸びました。自社のシステムを売ることが目的ではありません。「顧客のビジネスをどう良くするか」から考えられる人が、この業界では強い。
SaaS業界に向いていない人の特徴
「一度マニュアルを覚えたら、同じ仕事をずっと繰り返したい」という安定志向の強い人は、変化の速さにストレスを感じてしまう可能性があります。また、売って終わりの個人プレーが得意な営業スタイルだと、チーム連携と解約率を重んじるSaaSの文化に戸惑います。
まずは業界の全体像を押さえ、そのうえで自分がどの職種に合いそうかを見てください。他の業界の稼ぎ方と並べると、SaaSの何が特殊なのかがはっきりします。主要な型をひととおり並べたのがビジネスモデル一覧の記事です。
まとめ:SaaS業界の仕組みを理解して、一歩先を行くキャリアを築こう
SaaS業界のビジネスモデルは、単にソフトウェアを定額で売るだけでなく、「顧客と長期的なパートナーシップを築き、共に成長していく」という非常に合理的で現代的な仕組みです。
このビジネスモデルだからこそ、以下のような好循環が生まれています。
- 継続的な収益があるため、新規機能の開発や人材への投資に十分な資金を回せる
- 解約を防ぐために、顧客の声を素早く反映してサービスが常に進化し続ける
- 仕組みが組織化されているため、未経験からでも専門性の高いスキルを身に付けやすい
企業のDX需要が続く限り、SaaS業界の求人は増え続けます。「変化を恐れず、新しいスキルを身に付けて市場価値を高めたい」と感じたなら、ぜひこの魅力的な業界への一歩を検討してみてください。あなたのこれまでの経験が、SaaSという新しい仕組みの中で驚くほど活きるはずです。

コメント