ゼネコンの年収が高い理由は、1人が動かす金額の大きさにある
ゼネコンの年収が高いのは、社員1人が1年に1億5,000万円を超える工事を動かしているからです。大林組の単体決算では、完成工事高1兆4,740億円を9,472人で回しています※1※2。1人あたり約1億5,562万円。年収は、この桁から逆算された数字でした。
「ゼネコン 年収」で検索すると、スーパーゼネコン5社のランキング表がずらりと出てきます。平均1,000万円超、という数字も見つかります。ただ、その1,000万円を会社がどうやって払えているのかまで書いてある記事は、ほとんどありません。
最近では、中野サンプラザの再開発を不動産デベロッパーの野村不動産が落札したものの、大手ゼネコンの清水建設が工費や資材高騰を理由にその金額では請け負えないことを伝え、再開発が白紙になったこともありました。中野区民の友人は大きなショックを受けていました。インフレが進む中、今までのようにゼネコンは高年収を払い続けられるのでしょうか。
今回は、決算書を全部公開している会社を1社だけ選んで、実際の数字をたどります。使うのは大林組。金融庁のEDINETで誰でも読める有価証券報告書と、決算短信だけを材料にしました。転職サイトの推計値ではなく、会社が国に届け出た書類です。
大林組の平均年間給与は1,239万円。全国平均の2.6倍
まず、給料の側の数字から。
| 大林組(提出会社) | 全国平均 | |
|---|---|---|
| 平均年間給与 | 1,239万3,648円 | 478万円 |
| 平均年齢 | 42.0才 | 47.2歳 |
| 平均勤続年数 | 15.9年 | 12.6年 |
大林組の数字は第122期(2026年3月期)の有価証券報告書※2、全国平均は国税庁の令和6年分の統計です※5。
金額で2.6倍。しかも平均年齢は5歳ほど若い。この差がどこから出ているのかを、ここから順にほどいていきます。
ちなみに、同じやり方でコンサルの年収を数えたときは、1人あたりの売上が約2,123万円でした。ゼネコンは1億5,562万円。同じ「年収が高い業界」でも、1人が動かす金額は7倍以上ちがいます。この差の正体が、次の話です。
ゼネコンは自分では建てない|工事費の4分の3は外の会社へ
ゼネコンの社員は、現場でコンクリートを打つ人ではありません。大林組の完成工事原価1兆2,458億円のうち、外注費が62.6%、労務費が12.5%※2。合わせて75.1%が外の会社へ支払われています。自社の人件費として原価に入るのは、7.4%だけでした。
有価証券報告書には「完成工事原価報告書」という表が載っています。工事にかかったお金の行き先が、4つに分けて書いてある表です。第122期の中身はこうなっていました※2。
| 区分 | 金額 | 構成比 |
|---|---|---|
| 材料費 | 1,109億円 | 8.9% |
| 労務費(全額が労務外注費) | 1,559億円 | 12.5% |
| 外注費 | 7,793億円 | 62.6% |
| 経費(うち人件費921億円) | 1,995億円 | 16.0%(うち7.4%) |
| 合計 | 1兆2,458億円 | 100% |
この表で目を引くのは、労務費の行に付いた注記でした。1,559億円は全額が「労務外注費」と書いてある。つまり、手を動かす人はほぼ全員が外の会社の人ということ。
1人が年間9,875万円を協力会社へ発注している計算になる
外注費7,793億円と労務外注費1,559億円を足すと、9,353億円。これを社員9,472人で割ると、1人あたり約9,875万円という数字が出ます。
1人が1年に約1億円ぶんの発注を外へ出す。これがゼネコンの社員の実態です。自分で作らないから、少ない人数で巨大な金額を回せる。1人あたりが大きくなるのは、腕がいいからではなく、そういう組み立てになっているからでした。
束ねる相手は、全国に48万業者いる
では、その発注先はどこにいるのか。国土交通省の調査では、建設業の許可を持つ業者は令和7年3月末で483,700業者※6。ピークだった平成12年3月末からは19.5%減っていますが、それでも48万を超えます。
大林組の場合、そのうち約1,200社が「大林組林友会」という協力会社の団体に加盟しています(1906年発足)※2。教育訓練校を2014年に開校し、とび・鉄筋・型枠の3コースで人を育てているとも書かれていました。認定基幹職長の累計は5,157人。
手を動かす人を自社で抱える代わりに、手を動かせる会社との関係を長く保つ。ここに投資しているのが、この商売の土台です。人を貸す側の仕組みは派遣会社のマージン率の記事で書いたとおりで、建設の元請と下請のつながりも、お金の流れとしては同じ形をしています。
ゼネコンの粗利は1割強|それでも1人あたり2,400万円が残る
大林組の完成工事総利益率は13.6%、清水建設は11.8%です※1※4。1割強しか残らない商売。それでも母数が1兆円を超えるので、1人あたりに直すと2,409万円が残ります。ゼネコンの年収は、この「薄い率 × 大きな額」の掛け算から出てきた数字でした。
2026年3月期の連結決算を並べます。
| 完成工事高 | 完成工事総利益 | 粗利率 | |
|---|---|---|---|
| 大林組 | 2兆4,093億円 | 3,287億円 | 13.6% |
| 清水建設 | 1兆8,453億円 | 2,186億円 | 11.8% |
1兆円を売って、手元に残るのは1,000億円台。製造業やソフトウェアの感覚からすると、かなり薄い率です。
1人あたりに割り直すと、こうなる
大林組の単体(大林組そのもの、子会社を除いた数字)で、社員1人あたりに割り直してみます※1※2。
- 1人あたり完成工事高… 約1億5,562万円
- 1人あたり完成工事総利益… 約2,409万円
- 1人あたり販売費・一般管理費… 約1,103万円
- 差し引いて残るもの… 約1,306万円
完成工事総利益2,282億円から販管費1,045億円を引くと1,237億円。9,472人で割って約1,306万円。電卓を叩いた結果です。
平均年間給与の1,239万円は、この2,409万円の中から出ています。1人が1億5,562万円の工事を仕上げて、2,409万円を持ち帰り、そこから本社の家賃も研究開発費も自分の給料も出る。年収の額そのものより、この並びのほうが仕事の中身をよく表しているはずです。
粗利率が薄いと、原価管理が仕事の中心になる
粗利13.6%ということは、売上に対して1%ぶん余計に原価がかかっただけで、利益が7%以上消えるということでもあります。
だからゼネコンの現場では、原価表が毎日の話題です。予定より鉄筋が余った、天候で3日遅れた、追加の変更工事が入った。ひとつひとつが、そのまま数字に出る。この感覚が身につくかどうかが、この仕事の向き不向きをかなり決めます。
ゼネコンの年収がいま上がっているのは、工事の採算が戻ったから
大林組の完成工事総利益率は、2024年3月期8.6%→2025年3月期10.8%→2026年3月期13.6%と、2年で5ポイント上がりました※1※3。同じ期に平均年間給与は8.7%増え、2026年4月には6%のベースアップ※2。順番は、採算が先で給与が後です。
| 決算期 | 完成工事高 | 完成工事総利益 | 粗利率 |
|---|---|---|---|
| 2024年3月期 | 2兆2,067億円 | 1,888億円 | 8.6% |
| 2025年3月期 | 2兆4,677億円 | 2,654億円 | 10.8% |
| 2026年3月期 | 2兆4,093億円 | 3,287億円 | 13.6% |
売上はほぼ横ばい。変わったのは利益の率だけでした。資材価格が上がった分を、発注者との協議で工事代金に反映していったことが大きい。有価証券報告書には、価格転嫁の協議を対応策として進めていると書かれています※2。
会社が「なぜ給料を上げるのか」を自分で書いている
年収が上がった理由は、推測しなくても本人が説明していました。
当社は、給与を人的資本への重要な投資と位置付け、担い手確保や従業員の自律的成長を促すことで建設業の魅力を高めることが社会的責務であるとの判断のもと、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指している※2
もうひとつ、水準の決め方についてもこう書いてあります。
物価上昇を適切に賃金へ反映させることを前提に、事業環境、中長期的な生産性の動向や経営方針、人材の確保・定着及び成長促進の観点ならびに同業他社や他産業の水準を総合的に勘案し※2
「同業他社や他産業の水準」という一文が効いています。ゼネコン各社は同じ人を取り合っているので、1社が上げれば周りも動く。5社そろって1,000万円を超えるのは、この取り合いの結果でした。大林組は2022年4月以降5年連続でベースアップを実施し、累計は19.3%だと明記しています※2。
上がった分は、協力会社にも回っている
採算が戻った分の行き先は、自社の社員だけではありません。同じ報告書には、こう書かれていました※2。
- 国の方針に沿った適正な契約金額設定と、法定福利費を含む賃金支払を取引先へ要請
- 2026年4月以降の新規契約で、全協力会社への支払方法を現金払に統一
手形ではなく現金で払う、というのは資金繰りの話です。受け取る側からすると、入金が数か月早まるのと同じ効果があります。
なお、ここまでの数字はすべて大林組1社のもの。ただし清水建設の粗利率も9.3%から11.8%へ動いており※4、向きは同じです。
発注する側は、ゼネコンの何にお金を払っているのか
発注者が買っているのは「工事」ではなく、「1社に全部引き受けてもらう約束」です。建設業法では、元請が5,000万円(建築工事業は8,000万円)以上を下請に出すなら特定建設業の許可が要ります※7。ゼネコンとは、この立ち位置を法律の側から定義された会社のことでした。
ビルを建てたい会社の立場になってみます。48万業者の中から、基礎・鉄骨・電気・空調・内装・外構の会社を自分で探して、見積もりを取り、工程を組み、天候の遅れを調整し、事故が起きたら責任を持つ。これを自社でやろうとすると、そのための部署をまるごと作ることになります。
ゼネコンに一括で発注すると、この一式が消えます。買っているのは、期日・金額・品質・安全の4つを1社が引き受けてくれることです。
法律のほうが「元請」を金額で線引きしている
特定建設業の許可は、発注者から直接請け負った工事1件につき、5,000万円(建築工事業は8,000万円)以上の下請契約を結ぶ場合に必要になります※7。この金額は令和7年2月1日に引き上げられたもので、それまでは4,500万円と7,000万円でした。
483,700業者のうち、この特定建設業の許可を持つのは49,739業者※6。全体のおよそ1割です。残りの9割は、元請から仕事を受ける側です。
ゼネコンという言葉に法律上の定義はありませんが、実務では「特定建設業の許可を持ち、元請として一式を引き受ける会社」を指しています。年収の高さは、この立ち位置そのものへの対価です。
業界の全体像を1冊で追いたいなら、図解入門業界研究 最新建設業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第5版](阿部守)が、この記事で扱った元請と下請の関係や、業法・制度の変更点をまとめて扱っています。
ゼネコンの現場で働く毎日は「作る人」ではなく「段取りする人」
ゼネコンの社員の中心的な仕事は施工管理です。図面と工程表と原価表を持って、協力会社に「いつ・誰が・何を」を割り振る役。手を動かすのは外の会社なので、成果は自分の腕ではなく段取りの精度で決まります。原価の75.1%が外注だという数字は、そのまま仕事の中身を表していました。
研修で習ったことと、現場の数字が結びつかなかった話
私は新卒で入った会社で、最初の2か月が研修でした。そこで習った内容が、現場に出た瞬間に通用しなかった。先輩の判断基準は売上と利益で、研修で聞いた話とはまるで別のものに見えました。
当時は「理想と現実が違う」と受け取っていました。いま振り返ると、ズレていたのは理想と現実ではありません。会社が何で儲けているかを、研修が教えていなかっただけです。
数字を追う理由も、その数字がどこから来ているのかも説明されないまま、「数字をやれ」だけが降りてくる。だから現場のやり方が乱暴に見えました。仕組みを先に知っていれば、同じ光景の意味が違って見えたはずです。
ゼネコンでいえば、その「仕組み」にあたるのが原価表でした。工期を1週間縮めると誰の何が浮くのか、追加工事を取ると粗利がどう動くのか。先にこれを知っている人と、知らないまま「工程を守れ」と言われる人とでは、同じ3年でも残るものが違います。
給料の決まり方は、20代と管理職で別物になる
大林組は、給与の組み立てもかなり細かく開示していました※2。
- 非管理職… 年収に占める固定給与と変動給与の割合は、おおよそ9:1
- 管理職… 2026年度から再構築し、おおよそ4:6
- 会社業績に連動する賞与は、年収の約5%程度
つまり、20代のうちは会社の業績で年収が乱高下しない設計。職能資格制度に基づいて安定して昇給する、と書かれています。管理職になると職務と評価で6割が動く形に変わる。ここが分かっていると、20代の求人票に出ている数字の読み方も変わってきます。
労働時間について、会社自身が書いていること
建設業の働き方は、この数年で前提が変わりました。大林組は有価証券報告書の「事業等のリスク」に、長時間労働の項目を独立して立てています。
時間外労働の上限規制をはじめ、労働関係法令の遵守が一層求められる中(中略)人員、工期・納期等に関する制約や取引慣行もしくは外部要因等の制約により長時間労働が発生するリスクへの対応が不十分な場合には、プロジェクトの進捗管理やコストに悪影響を及ぼす※2
対応策として挙げられていたのは、労働時間の適正管理、業務の平準化、ICTツールによる効率化、「適正工期を前提とした受注活動」の4つでした。最後のひとつは、無理な工期の仕事は取らない、という意味です。
あわせて「ロボティクスコンストラクション」という取り組みも書かれています。危険作業や単純作業を機械に置き換え、クレーンや重機を遠隔・自動で動かす方向※2。人が足りないから省人化する、という流れはデータセンターの記事で書いた運用の自動化と同じ形をしています。
ゼネコンに向いてる人・向いてない人
ここまでの数字から、向き不向きはかなりはっきり出ます。
向いている人
- 人に頼んで動かすほうが性に合う… 自分の手より、相手の手を10組そろえる仕事
- 数字で状況を説明できる… 遅れも余りも、金額に直して報告する
- 初対面の相手と早く関係を作れる… 現場ごとに顔ぶれが入れ替わる
- 形に残るものを見たい… 完成した建物は、何十年もそこにある
向いていない人
- 自分の手で作り込みたい… 施工そのものは協力会社の仕事です
- 転勤や現場異動を避けたい… 工事が終われば、次の現場へ移ります
- 短期で成果を見せたい… 1件が数年がかりになることも珍しくない
どちらが優れている、という話ではありません。自分で作りたい人は、専門工事会社や設計事務所のほうが力を出せます。
ゼネコンへの転職で見るべきは「どの数字が自分の給料になるか」
数字だけ、もう一度並べ直します(すべて大林組・2026年3月期)。
- 1人あたり完成工事高… 約1億5,562万円
- 1人あたり完成工事総利益… 約2,409万円
- 1人あたり外注(協力会社への発注)… 約9,875万円
- 平均年間給与… 1,239万3,648円(平均年令42.0才・平均勤続15.9年)
- 全国平均… 478万円
ゼネコンの年収が高い理由を一文にすると、こうなります。自分では作らないから社員が少なくて済み、少ない社員で1兆円を動かすから、1人あたりが大きくなる。粗利率は1割強と薄いのに年収が高いのは、母数が桁違いだからでした。
面接で年収レンジを聞く前に、こう聞いてみると相手の顔が変わります。
「完成工事総利益率は、直近3期でどう動きましたか。上がった分は、どこに配られましたか」
この質問に具体的な答えが返ってくるなら、社内で共有されている数字だということ。そして「上がった分の行き先」の答えには、その会社の考え方がそのまま出るところです。社員に配ったのか、協力会社への支払条件を良くしたのか、次の技術に投じたのか。どれも間違いではありませんが、選び方には性格が出ます。
最後にひとつだけ断り書きです。ここで使ったのは大林組1社の数字です。会社ごとに得意な工事も海外比率も違うので、そのまま業界全体には広げられません。ただ、完成工事原価報告書は建設業の会社なら必ず作る表なので、気になる会社の有価証券報告書を開けば、同じ計算が自分でできます。
他の業界がどこで稼いでいるかと並べると、ゼネコンの立ち位置がはっきりします。主な型をひととおり並べたのが儲かる仕組みの一覧、稼ぎ方を4つの型に分けて俯瞰したのが業界研究の俯瞰図です。
出典
- ※1 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(株式会社大林組、2026年5月13日)
- ※2 有価証券報告書(第122期・2026年3月期)(株式会社大林組、2026年6月24日提出)
- ※3 2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(株式会社大林組、2025年5月13日)
- ※4 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(清水建設株式会社、2026年5月12日)
- ※5 令和6年分 民間給与実態統計調査 -調査結果報告-(国税庁、令和7年9月)
- ※6 建設業許可業者数調査の結果について(令和7年3月末現在)(国土交通省、令和7年5月16日)
- ※7 建設業の許可とは(国土交通省)
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